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ティーチイン

7月3日(日)

この日は最近すっかり映画が観られなくなってしまっている妻を久し振りに映画館に送り出す日。やることがたまっているからといって,朝一でしかも近所の映画館へと出かけていった。ここ調布パルコ・キネマはけっこう私も思い入れのある映画館なのだが,今年の9月で閉館が決まってしまった。普通の昼間の回は子ども向け作品を上映していることが多いのだが,イヴニングショーやレイトショーなど,かなり映画ファンに嬉しいチョイスで過去の作品を観ることができたりする。さて,それはおいておいて,上映前に妻から電話。何でも,この日の昼間の回の上映後に,是枝監督が来場し,30分間のティーチインが行われるという。幸い,私はこの作品をまだ観ていなかったし,わざわざ調布まで是枝監督がやってくるという機会も珍しいし,閉館してしまうのだから,今後はない。私たち自身今度府中に引越して,近所の映画館がTOHOシネマズ府中になるが,そこではこういう機会はまず望めまい。ちょっと悩んだが,妻が夕方の回を観るのを薦めてくれたということで,その厚意に甘えることにした。

妻が観る回が終わる頃に調布PARCOに息子を連れて行く。チケットを取ってもらった代わりに,PARCO内にある少し洒落たカフェでランチをすることにし,妻の買い物にも付き合う。

調布パルコ・キネマ 『奇跡
ということで,是枝裕和監督最新作。オリジナル脚本にこだわり,一つ一つのシーンをじっくりと丁寧に撮るという映画監督の王道を行く稀有な監督だと思う。この精神は彼の下で助監督をいくつか経験した西川美和監督に引き継がれているが,映画ファンである以上,彼の作品は観続けなくてはいけないと思う。しかし,本作は既に随分話題になっている。それは,今回の大震災直後に九州新幹線が全線開通し,そのCMは日本に元気を与えると絶賛された。その九州新幹線の開通というのが物語の基礎になっているというタイアップ的作品。そんなタイアップ的作品であるというのは,是枝監督にしては珍しい。だからこそ,私は本作にはさほど期待をこめずに観た。
私が是枝監督の映画を知ったのは,かつて日本映画フリークだった友人による。それはちょうど『誰も知らない』公開の前後で,レイトショーで再映をやっていた『ワンダフルライフ』と『DISTANCE』を立て続けに観たのだ。もちろん,『誰も知らない』はロードショーで観ている。そんな3本で,私は是枝監督のことを重々しいテーマを数年かけて制作する人という印象で捉えていたが,やはりその友人からもう一人のある意味ではライバル的で,ある意味では対照的な監督が行定 勲。彼もけっこう重々しい作品を撮るが,自分の好きなことをやる作品と,そのためのお金儲けのためにやる商業作品とが明確に分かれるという印象があった。是枝氏は不器用だが,行定氏は器用。そういう意味では,今回のは是枝氏がお金儲けのために映画を撮ってもいいじゃないかと私的に想像した次第。
しかし,実際は違かった。本作はもちろん,九州新幹線全線開通記念という意味合いがあり,JRを中心に相当の広告費もかけていたようだが,オリジナル脚本だし,全編とても丁寧に撮られている。そういえば,是枝監督も最近は『花よりもなほ』や『歩いても歩いても』といった,決して重々しくない作品を撮るようになった変化からすれば,随所で微笑が漏れるような本作のような作品はその流れに位置づけられるかもしれない。しかし,実のところ私は『歩いても歩いても』はあまり好きではなかったので,今回の『奇跡』の出来には十分に満足している。まさに子どもたちが生き生きしている作品。そして,それを支える大人の俳優たち。奇しくも本作には,『歩いても歩いても』に出演した俳優が多数出演しているのだが,阿部 寛や長澤まさみをチョイ役で出演させるなど,なかなか贅沢でもある。

さて,上映が終わってティーチインが始まります。私は知らなかったけど,これは是枝監督が作品を作るたびに続けているものだそうだ。いろんな場所の映画館に行って,上演の前か後かというのがゲストのスケジュールによって決まるような形式的な舞台挨拶ではなく,必ず上映後に,観終えた観客と質疑応答形式で作品に関する意見を交換するというもの。舞台に上がった是枝さんは年齢の割には若く見えて目がキラキラしていて少年のようでいながら,同時に常に冷静に周囲を観察している,そんな印象。まあ,これは単なる見た目の印象ではなく,常に何かを求めて映画作品を作っていくクリエーターとしての魅力が彼の外見ににじみ出ているということだ。それでいて,華やかな世界の人間とは思えない素朴な人懐こさも持っている。
そんな感じで質疑応答。私は最前列の中央より一つ右の席に座ったのだが,それは最前列中央に既に先客があったからだ。第一番目の質問者は彼。群馬からこのために調布に来たという彼はかなりの是枝ファンと思われ,なかなか鋭い質問を浴びせています。他にも質問者の多くは,この作品を観るのが2度目という人たちで,かなりレベルの高い質疑応答が進み,私はとてもいい質問は思いつかなかった。他にも,映像関係の専門学生による質問など,30分では足りないぐらいの充実した時間。なかなか貴重でした。ちなみに,そこでのお話から知ったことを一つだけ書いておくと,是枝監督は『誰も知らない』から続けている子役への演出方法があるという。それは,脚本をあらかじめ渡すのではなく,撮影しながら,一つ一つの台詞をその場で伝えるのだという。また,場合によっては,子ども同士の会話においては,片方の子どもにはあらかじめ用意した質問を伝え,もう片方の子どもはその質問に対して,自分の役が置かれたシチュエーションを理解したうえで回答を考えるという手法だという。
これは有名な話かもしれないが,彼の作品の子どもが生き生きしているのはそのせいだと妙に納得してしまいます。そしてティーチインが終わった後も,是枝さんは控え室には下がらず,出口のロビーで観客たちと会話を交わしています。この人にしてこの作品か,とやはり妙に納得してしまう私でした。

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コメント

>群馬からこのために調布に来たという彼はかなりの是枝ファンと思われ,なかなか鋭い質問を浴びせています。
 
群馬?!  まさか、高崎に住む私の友人ってことはないんだろうな。50歳ぐらいなんですが。
このところ彼のmixi日記が書かれてなくて・・・。
機会があれば、確認してみます。
 
あ、本作はもちろん観ましたが、特に惹き込まれるというほどではありませんでした。
でも、気に入っている人の評価はすごく高いですね。

投稿: 岡山のTOM | 2011年7月10日 (日) 05時55分

TOMさん

おそらくその人ではないですね。年齢的には20歳台後半というところでしょうか。ひょろっと背の高い人でした。
そうでしたか。TOMさん的には本作はそれほどでもなかったんですね。

投稿: ナルセ | 2011年7月10日 (日) 16時00分

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