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銃・病原菌・鉄(下巻)

ジャレド・ダイアモンド著,倉骨 彰訳 2000. 『銃・病原菌・鉄(下)――13,000年にわたる人類史の謎』草思社,332p.,1900円.

以前にもこちらで上巻を紹介したが,その下巻。上巻は第3部に入って,本のタイトルにもある病原菌の話で終わってしまった。下巻も引き続き病原菌の話かと思いきや,話は一転してしまう。まずは目次を。

第3部 銃・病原菌・鉄の謎
 第12章 文字を作った人と借りた人
 第13章 発明は必要の母である
 第14章 平等な社会から集権的な社会へ
第4部 世界に横たわる謎
 第15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー
 第16章 中国はいかにして中国になったのか
 第17章 太平洋に広がっていった人びと
 第18章 旧世界と新世界の遭遇
 第19章 アフリカはいかにして黒人の世界になったのか
エピローグ 科学としての人類史

こうして上巻同様,目次を書いてきてなんだが,原文と大きく違うタイトルとほぼ直訳に近いタイトルがある。前にも書いたが,著者のジャレド・ダイヤモンドはニューギニアの鳥類研究を専門とする,進化生物学などを肩書きとしているが,現在は地理学に籍を置いている。そんなこともあって,日本での紹介ではほとんど地理学というのは前面に出てこないが非常に広く受けいられているようで,その一方で地理学者はほとんど彼のことを無視しているという状況で,地理学者として本書に関して何か発言するべきだということで,昨年まで英語の文献を集まって読んできた4人で,本書を検討することにした次第。4人のなかで米国居住経験を持つ二村君が原著との突き合わせ担当で,先日原著を持って集まった。それによれば,日本語訳と,その後加筆された原著とではいくつかの相違があるのが分かった。一つは上にみたように,章のタイトルの変更。ちなみに,節のタイトルは日本語訳にしかないもの。また,原著にはついている,各章の文献案内は日本語訳では訳出されてない。もともと,原著は一般読者向けの出版社から出ているが,日本語版は本書のテーマについてさらに学びたいという人や,著者の学術的根拠を知りたい人には何も情報を与えてくれない。また,原著ではその後,日本に関する短い章が追加されている。ちなみに,2000年に出版された日本語訳はそれなりに売れているようで,増刷を重ねている。もうそれなりに稼いでいるのだから,そうした著者による加筆も含め,改訂版を出してもいいかと思うが,訳者は専門分野とは全く関係ない職業翻訳家のようなので,同じ訳者による改訂は難しいのだろう。
さて,前書きが長くなったが,内容に移ろう。目次に書いたように,病原菌の話から一転して文字の話に移る。続いて,世界中の不平等状態を生み出したものであると同時にその結果でもあるさまざまな技術であるが,それがある社会で独自に発明されたものなのか,それが伝播したものなのかということを理解することは,本書のテーマにとって重要である。よく「必要は発明の母である」というが,著者はそれを逆さにする。彼の主張によれば,発明は必要から生まれることよりも偶然によるものが多いということと,発明された技術が伝播すると,これまでなかった必要が新たに生まれるという論法。続いての社会組織の話は,社会学者が長年にわたって詳細に研究していることを非常に単純化し,社会組織とその支配の仕方は社会の人口規模によって決まるという非常に大胆なもの。まあ,これはこれで面白い。
第4部は日本語訳でなにかと「謎」や「ミステリー」という語が好まれ,バミューダトライアングルとか,ナスカの地上絵とか,モアイ像とか,そんなもの好きな読者を想定しているような書きぶりのようにみえる。まあ,実際はそんなことないのだが,本書の流れからいうと総論に対する各論的な,なにやら付け足しのようにも思える。第4部には,これまでも登場してきたニューギニアや中国などの議論があり,逆にこれまでほとんど登場しなかったアフリカの話もあり,重要ではあるのだが,本書の構成はやっぱりちぐはぐ感が否めません。
そして,エピローグ。突如,ダイヤモンドは「歴史科学」という言葉をもちだす。人類の歴史は旧来の人文科学としての歴史学ではだめなのだという。歴史学も他の自然科学と同様の方法で論証されるべきだという。それが彼が本書で行った方法論であり,大きな時空間スケールにおける人間の歴史を自然環境から説明していこうという立場である。もともと自然科学者としてのダイヤモンドはもちろん,フェルナン・ブローデルの歴史学などにはまったく言及していない。でも,このエピローグに含まれている「なぜ中国ではなくヨーロッパが主導権を握ったのか」という説明には人為的な歴史的偶然性が決定的な要因となるという。
本書は読者をぐいぐいと引き込む文体が魅力であるといろんなところに書かれているが,私にはその魅力は全く理解できない。苦痛で読み進めないほどではないが,全般的に記述は退屈で,かといって私にとっては画期的な歴史解釈が提示されているわけでもないので,あまり刺激的な読書とはいえない。
にもかかわらず,日本でもかなり好意的に受け入れられているのはなぜなのだろうか。これから考えたいと思う。

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