« 県庁おもてなし課 | トップページ | 風土学序説 »

人文地理学会大会

11月13日(日)

前にお知らせしたように,池袋の立教大学で人文地理学会の学術大会があり,出席してきました。知っている人は知っていると思うので,詳しくは書きませんが,今回の学会によって私のこのblogも有名になってしまったので,発表するという以外の妙な緊張感を抱いて会場に向かいます。
なるべく人通りのない経路をたどって大学へ。でも,行く途中にパンのテイクアウトができるカフェ,あるいはイートインを併設したパン屋(?)「CAFE TERVE!」なるお店を発見した。開店は10:30からだというので,後で買いにこよう。この日は昼休みに会員控え室でちょっとした打ち合わせがあるので,昼食持参とのこと。コーヒーはいつも通り家でタンブラーにいれて持参した。ちょっと早すぎる到着でしたが,朝一に発表を聞く予定の第3会場で待ちます。ちなみに,この日は大学を使って,「色彩検定」などもやっていて,休日の割にはキャンパスには人が溢れていた。
上記の理由(詳細は書いてないけど)で,この日のことはblogには書かないつもりだったが,今回はしっかり他人の発表も聞いたので,それらについて意見を書いておこうと思う。そもそも,研究成果というものに対して一般的な意見が公の場にさらされる機会はあまりない。論文や著書のなかで他人の研究に言及するという限定された状況では少なくないし,著書という形態で発表された場合には少なからずの書評やネット書店のユーザーレビューなどが出る可能性はあるが,論文はまだしも,学会発表への意見というものは直接的コミュニケーション以外にはほとんどありえない。一応,地理学系学会の多くが,学術大会で発表して多くの人に意見をもらうことが,論文として雑誌に投稿することの条件となることが多い。でも,実際に意見をもらえるだろうか。発表者の多くは質疑応答の時間まで発表時間にあててしまう。まあ,ともかく発表直後にその場で意見や質問をするというのはけっこう難しいので,こうして事後的だが,聞いてきた発表にもの申そうという密かな試みである。

山口 覚「都市景観行政の30年―尼崎市都市美形成条例の事例―」
朝一に期待していたのは山口君の発表。彼は同世代のなかでも尊敬すべき存在。早々と母校に就職を決め,それでいて論文生産のペースは落ちず,著書も1冊あります。同業者と結婚して可愛い娘さんも産まれたようで,毎年娘さんの写真の年賀状が送られてきます。私は学会にはたまにしか参加しないが,たまに参加するとトイレなどでばったり会うことが多い。会うことは多いんだけど,まともにじっくりお話ししたことはない。しかも,彼の学会発表もあまり聞いたことがなかったので,今回はじっくり聞いてみることにした。私の世代は学会でもばっちりスーツで決めてくる人は少ないが,彼はそんななかでも黒いタートルネックを着ていることが多いような気がする。この日もそうでした。と,ここまで書きながら実は彼の研究テーマには興味はあるんだけど,なかなかきちんと読んだこともない。私のような捻くれた読者にはちょっと面白みがないというのが正直なところだろうか。それだけ,正攻法の研究者なのかもしれない。彼が尼崎に関わっていることは知っていたが,今回の報告はこんなタイトル。なにやら流行のテーマに関連づける用意はあるようですが,この日の報告の内容は事実の整理だけの印象。景観は地理学の主要なテーマではありますが,この報告ではあらかじめ決められた「景観行政」における景観概念は所与のもので,そこを議論する余地はなしという感じで面白くない。

川西孝男「ヨーロッパ聖杯騎士伝説をめぐる歴史地理学的考察―「ペルスヴァル」から「パルツィヴァール」,そして「パルジファル」へ―」
この報告は聞くつもりがなかったけど,自分の発表について精神的な準備ができる場所をみつけられなかったので,自分の発表会場で準備をするついでに聞いていた。京都大学の院生ということだが,どうにも地理学者という感じではなく,歴史学者だ。会場でもちょっと場違いな感じの発表でした。

北川眞也「ヨーロッパの境界における場所の政治―イタリア・ランペドゥーザ島へローカル化される移民の地政学―」
続いては,地政学研究期待の北川君。前に聞いた発表も同じフィールド,地中海に浮かぶ移民の島,ランペドゥーザの報告。前の発表はちょっと中途半端な気がしたけど,今回のは発表自体も非常に工夫されていて,興味深かった。表象や言説オンリーでやっているこちらからすると,こういう研究をやられると比較的分かりやすいし説得的なのでかないません。でも,正直なところを書くと,彼が現地のフィールドワークで得てきたオリジナルなデータというのはこの研究で何なのだろうか。おそらく,言説資料だけでも現地に行かないと手に入らないし,2次的資料でもどういうものがあるのかということ,そしてやはり場所の雰囲気を感じ取るためにも現地に行くことは必要だと思う。しかし,やはりせっかく現地に行ったのであれば,そこに居合わせた者しか知ることができないことというものが分析の中心であって欲しいと思う。まあ,これはフィールド調査をやらない人の無い物ねだりだろうか。

ここで,私の発表だったが,なぜか体は緊張を隠せず,口が乾いてしまい,うまくしゃべれなかった。でも,一応ちょうど持ち時間で話を終えることはできた。しかし,誰一人として質問や意見をいう人はいなかった。今回の座長はなんと加藤政洋さんだったので,それも緊張の原因の一つ。厳しいことをいわれることを覚悟していたが,うまくまとめてくれて,適切な質問をしてくれました。

大平晃久「記念碑の建立と比喩―文学碑を事例として―」
私の報告の冒頭にしゃべったのだが,北川君から続く4つの発表で「場所」がキーワードとして使用されていた。大平さんは私が彼が発表した論文に対してコメント論文を書いたような仲。「場所の言語的構築」というテーマにおいては,内田順文氏がきちんとした研究をしなくなってから,立場は異なるものの,私と大平さん(+泉谷氏?)が追求している。しかし,冒頭で大平さんがしゃべっていたように,今回の報告はその追求を先に進めるようなものではなく,ちょっとした事例報告。期待していなかった分,私には面白かった。そして,北川氏の発表に続いて(私のは飛ばして)質問をしたのは水岡不二雄さん。そんなこといわれても,ってコメントが面白いです。

ここで,お昼を買いにくる途中で見つけた「CAFE TERVE!」でパンを買う。残念ながら総菜パンのようなものはなかったけど,普通の何も入っていない丸いハード系のパンとブルーベリーのベーグルを買って戻ります。昼休みは『地政学入門』という英文教科書の翻訳メンバーとの打ち合わせ。私はいつも会社に行く時のように家でコーヒーを入れてタンブラーで持参しました。

吉田国光ほか「焼畑山村における生業変化からみた自然環境と人間の関係―熊本県芦北町黒岩集落を事例として―」
午後はちょっと予定を変更して,国光君の発表を聞きにいく。彼は研究的に近いわけでは決してないのだが,以前地理学者の集まりで何度か会ったり,メールのやり取りをたまにしたりしていた。研究自体はオーソドックスな農村研究なのだが,その論文の語り口などが読ませる文章なのだ。ということで,関西出身の彼らしい独特の口調による口頭発表も聞かせる内容になっている。しかし,ある先生がその場でコメントしたように,この内容を「自然環境と人間の関係」という古典的な地理学的テーマで論じるにはかなり無理があると思う。奇しくもこの会場に入る時に中島弘二さんと一緒になったが,1989年の『地理学評論』に掲載された彼の論文などを参照すべきかもしれない。
ところで,やはりここでもフィールドワークに関する疑問が浮かんでしまう。この報告でその地域の数十年の暮らしぶりや年単位の作付けスケジュール(?)などが整理されているが,その多くが現地の人からの聞き取りによるものだと思う。すなわち,その地で数年生活して観察したような一次資料ではなく,あくまでも語りという表象である。その他にも,空中写真などのデータも表象の類いだ。まあ,そういう研究が悪いというのではなく,程度の問題であり,フィールドワークをしないと思われている私の研究もそう大きく違わないのではないか,と思う次第である。

香川雄一「琵琶湖の環境問題をめぐる新聞報道の地域性」
国光君の報告を聞こうと思った理由の一つは同じ会場の次の発表が香川君だったからだ。香川君はかつて共同で論文を書いたことのある同世代の地理学者。しかも,それは日本の地理学における言語資料を対象とする研究のレビュー論文だった。今回の香川君の報告は,そこから漏れるような言語資料の地理学的研究の典型ともいえる。なかなか手を付けづらい定性的研究ではなく,新聞記事の定量的研究。その研究手法も素朴ながら非常に工夫されていて,いい研究だったと思う。しかも,彼が現在所属する大学のある県をフィールドとして,自身のテーマ環境と政治を扱っている。やはり,彼は私が信頼のおける堅実な研究者だ。

神田孝治「与論島観光におけるイメージの変容と現地の対応」
次に聞いたのはやはり一時期共同で翻訳の仕事をしていた,ちょっと年下の神田君の報告。学生を連れた調査旅行で訪れたことからすっかり好きになってしまったという与論島がフィールド。この事例で理論的な進展はありませんと断りながらも,やはりこの島の観光にも掘り起こすと面白い過去が出てくるところがさすがの目のつけどころだし,そのまとめかたもさすが。ちなみに,そのきっかけは荻上監督の映画『めがね』だそうだ。

蘇 紋槿「観光の空間の生産と民俗文化の観光資源化―台湾の内門紫竹寺や南海紫竹寺を中心に―」
続いて,台湾ネタということで聞いてみた。神戸大学の大学院生ということで,フロアの前方には大城さんの姿もありましたが,あまり期待できる内容ではありませんでした。神田君からの孫引きでルフェーヴルの『空間の生産』の議論を枠組みにしているが,むりやり事例を当てはめている感じ。事例の紹介は特筆することはないが,座長からの質問が日本語としてあまり理解できなかったようだ。

山﨑孝史「大阪都構想をめぐる地政言説の構成―リスケーリングの政治とその錯綜―」
最後は最近話題の大阪府知事橋下氏と大阪市長平松氏の間で交わされた4時間半におよぶ討論の内容の言説分析。山﨑さんの発表自体が演説のようなエンタテイメント性を持っていて,さすがといわざるをえない。しかも,まだ日本では馴染みのない政治地理学をうまく取り込んでいるところもすごいです。

とうことで,最後の発表を聞いて,私は誰も知られずにそっと帰路につきました。

|

« 県庁おもてなし課 | トップページ | 風土学序説 »

学問・資格」カテゴリの記事

コメント

コメントありがとうございます!
大きいテーマをぶち上げて見切り発車したのですが,やっぱり甘かったです。中島先生の論文も完全に消化しきれていないのが現状ですね。分析結果をもう一段階上のところに昇華させる方法を考えることが,こないだのネタを論文にするキーになると思います。(単に事例研究として投稿しても,粘ればいずれ載るでしょうが,そんなことばかりしていても,いけない気がしているところです)

あと成瀬さんの「フィールドワーク」に対する疑問は,何となくわからんでもない気がします。日本では,現地での聞き取り調査&資料収集=フィールドワークであり,言語資料の渉猟≠フィールドワークという認識が根強いということでしょうか。
現地での聞き取り調査をもとにした研究も,二次資料をもとにした研究も,紡いだ語りを分析している点では,ともにフィールドワークではないかとも思います。この考えは,「社会地理学や文化地理学は執筆者の主観的な云々…」という稀?に耳にする言明に抱く違和感に通じているのかなとも思います。
 この言明については,文化地理学であっても経済地理学であっても,被調査者(媒体)の主観的な「動き」を調査者(分析者)が拾い上げて分析しているのであるし,どうも的を射てないような気がしてならないんですよね。分析対象は異なっても,結局のところ大きな枠組みはあまり変わらない気がします。「外で汗をかいて聞き取り調査をしてデータを集める」ということだけがフィールドワークではないのに。

blogコメントに長々とすみません。密かな試みに乗りたかったので,多くの人が閲覧できるコメントにしました。

投稿: よしだくにみつ | 2011年11月23日 (水) 19時09分

よしだくにみつ君

長大なコメントありがとう。
私の日記も我ながら長いですけどね。
私も今回はかなり見切り発車でした。今回ばかりは「あなたの発表は本の紹介をしているだけじゃないですか」と怒られても仕方がありませんでしたが,まったく意見はなく,助かりました。

さて,フィールドワークについては,ちょっとうまく伝えられていない気もします。フィールドワークといったって入手する資料のほとんどは二次資料じゃないかなって思うんです。そこが,かつて「表象」というキーワードで現代思想家が問題としようとした現実認識であって,それは何を「知る」にも基本的に考えなきゃいけないことだと思うんだけど,多くの人にとって「表象」は解決済みの問題か,他人事のようなのですよね。

投稿: ナルセ | 2011年11月24日 (木) 21時58分

>何を「知る」にも基本的に考えなきゃいけないこと
 ようやく「程度の問題」という最初の記述に辿り着きました。「表象」を解決済みの問題とできる人は,そうおらんと思います。こういった話は学部時代に先生方の話であった気がします。なかにはこの手の問題に気付かない人もいるかもしれませんが,多くの人は気付いているけど,どうしたらいいかわからないままに、暫定的に利用しているのかなとも。私もその一人で,私は逃げていると言ってもいいぐらいですね。学会発表が発端だけに今後の課題とさせていただきます!

投稿: よしだくにみつ | 2011年11月25日 (金) 20時04分

よしだくにみつ君

まあ,表象の問題をきちんと考えてフィールワークってのは難しいと思いますよ。
でも,今後の研究も期待しています。

投稿: ナルセ | 2011年11月27日 (日) 12時36分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/53253364

この記事へのトラックバック一覧です: 人文地理学会大会:

» たった10日で「色彩検定2級」が取得できます! [「色彩検定2級」最短合格マニュアル]
カラーコーディネーターの都外川八恵が教える最短10日間で「色彩検定2級」を取得できるポイントレッスンをご覧下さい。 [続きを読む]

受信: 2011年12月 7日 (水) 20時41分

« 県庁おもてなし課 | トップページ | 風土学序説 »