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遅ればせながら謹賀新年

読者の皆さま

今年もよろしくお願いいたします。
現在私は3月の日本地理学会春期学術大会の発表に向けて,モチベーション高く調査研究をしています。今回のテーマはドイツの現代芸術家,ゲルハルト・リヒター。彼の存在をどこで知ったのかは忘れたが,書店に並ぶ彼の画集を数年前から立ち観してはうなっていた。
芸術家として素晴らしいのはもちろんのこと,彼の主要作品である『アトラス』や,私が初めて買った彼のが集のタイトルが『景観』,そして昨年から欧米各国で開催されている彼の回顧展のタイトルが『パノラマ』と,どれも地理学者の心をくすぶる感性がそこにはあるのです。そして,文献を探し始めるといきなりみつかったのが,実は地理学者の論文。英国に住むMatthew Gandyという地理学者だが,彼が1997年にアメリカ地理学会の雑誌に掲載した論文でリヒターの作品が取り上げられている(ちなみに,この人のサイトにリンクを貼っておいたが,非常に多岐にわたる魅力的な研究をしている地理学者。そして,自分の論文を全てPDFで公開している!)。そこから,あまり知らなかったが,地理学者による芸術研究ってけっこう多くて,面白い論文がたくさんあることに気づく。個人的にはDenis Cosgroveの景観研究の現代版として展開するつもりだが,参考になりそうな文献はかなりありそうだ。
日本のリヒター研究者にもコンタクトを取り,メールのやり取りをさせてもらっている。やはり他分野の研究者との交流は非常に刺激的だ。3月の学会は私の出身大学,首都大学東京での開催なので楽しみだ。発表要旨の締め切りが1月19日だし,発表までも3ヶ月を切っているので,明らかに時間が足りないが,ともかく毎日知的刺激の洪水といった感じで充実している。

そんなこんなで,年明けに観た映画二本も非常に知的な刺激を受ける作品でした。

1月5日(金)
新宿武蔵野館 『サラの鍵
知的な雰囲気の漂う英国女優,クリスティン・スコット・トーマス演じるジャーナリストはフランス人の夫とパリに住む。今回,夫の祖父の時代から住んでいたアパートを改装して引っ越そうかという時期に,主人公は仕事で,パリにおける戦時期のユダヤ人迫害について調べることになる。ナチス・ドイツ占領下においては,フランスにおいても警察がドイツ政府に協力する形でパリに住むユダヤ人を検挙し,強制収容所に送るということをやっていたという。すると,その夫の祖父が手に入れたアパートもひょっとしたらそうして追い出されたユダヤ人がかつて住んでいた部屋だったのではないかという疑惑が出てきて,主人公は過去の旅へと出かけていく。あまりにもつながっていく人間関係はいかにもフィクションですが,史実をうまく物語に乗せることでリアリティを増していると思う。
最近はまだまだナチス関係の映画が製作され続けています。それらをあまり観ていませんが,本作はそのなかでも良質な作品ではないでしょうか。

1月8日(日)
日比谷TOHOシネマズ・シャンテ 『灼熱の魂
今度は中東が主たる舞台。こちらも,現代のカナダを生きる若者が,亡くなった母親の遺言に基づいて母の過去をたどる旅のなかで驚愕の事実を知るという展開。そういう意味では『サラの鍵』とよく似ています。しかし,『サラの鍵』の主人公がジャーナリストとして真実を積極的に知りたがったのに対し,『灼熱の魂』の主人公の双子の姉弟,特に弟は真実など知りたくもない,とはじめは消極的だった。劇中にテルアビブが出てくることから,私は初めこの母の故郷はイスラエルだと思ったが,そこで出てくる紛争はイスラエル−パレスチナのそれとはちょっと違う。原作者はレバノン出身者だというが,どうやら本作はフィクションらしい。実際に1970年代にレバノンで起きたことを土台にしていながらも,近年のイスラエル−パレスチナ問題も含め,いくつもの問題の共通項を抽象化して,フィクションとして具体化する,そんな映画。こちらも,人間関係があまりにも劇的すぎる気もしないでもないが,エンタテイメントとして楽しめると同時にいろいろ考えさせられる,という意味でいい作品だと思う。

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コメント

本年も宜しくお願いします。
 
映画は、さすがの2本といったところですね。きっとご覧になるだろうなと思ってました。
どちらも高い評価を受けてますよね。特に「灼熱の魂」。今日ぐらいに発表されるキネ旬ベストテンにランクインするのではないでしょうか。
こちらでは3月の公開。決まって、ほっとしています。

投稿: 岡山のTOM | 2012年1月12日 (木) 02時49分

TOMさん

こちらこそ,よろしくお願いします。
TOMさんのこのコメントがちょうど800個目のコメントでした。
ここ数年は米国以外の外国映画に質がいいものが多くなっているような気もします。
一方,日本映画は全体的にできはいいのですが,飛び抜けるようなものがなかなか出てこないといったところでしょうか。

まあ,そんな偉そうなことをいっても,本当に映画というものは1本1本,本当に楽しませてくれるので,これがない人生なんてって感じです。

投稿: ナルセ | 2012年1月13日 (金) 16時52分

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