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文化と帝国主義2

エドワード・W・サイード著,大橋洋一訳 2001. 『文化と帝国主義2』みすず書房,271+xlivp.,4200円.

『文化と帝国主義1』が出版されたのが1998年。原著は1冊だが,日本語訳は上下巻になった。上巻は出版されてから新刊で間もなく購入し,読んだものの,なかなか下巻が出版されない。忘れた頃に出版されたが,私のなかでのサイード熱も冷めてしまい,新刊では購入しなかった。そのうち古書で安くなるだろうと思いきや,やはり古書で下巻だけというのはなかなかない。結局,Amazonで安くなるのを待って,出版後10年してようやく読んだという次第。
ちなみに,本書の原著は1993年に出版されている。ちょうど私が大学院に入学した年。修士1年の時にアルバイトをしていたとある財団法人に,とある大学院の修士課程を地理学専攻で修了した人がいて,サイードの『オリエンタリズム』の存在を教えてくれた。翻訳は1986年に出版されているから,随分経っていたが,現代思想関係は卒業論文執筆時から独学で読み始めたので,私は全くその存在を知らなかった。そんななか,読んだ『オリエンタリズム』は衝撃的で,修士論文の枠組みにサイードは随分役立った。『オリエンタリズム』に続いて,『始まりの現象』,『世界・テキスト・批評家』,『イスラム報道』,『音楽のエラボレーション』,『知識人とは何か』と,当時日本語訳が出版されていたものは立て続けに読んだ。『パレスチナとは何か』については1996年に書評も書いている。そんな頃,神保町の北沢書店で見つけたのがすでにどこかの普及版ペーパーバックだったが,本書の原著であった。結局,サイードの本をいくつか訳している大橋洋一氏によって,5年後に訳出されたわけだが,私は無謀にもそれを翻訳しようと読み始め,すぐに挫折したのだ。そんな昔のことを懐かしく思い出す。
さて,そんな感じで,上巻を読んでから下巻を読み始めるまで数年空いてしまったのだが,訳者の大橋氏もあとがきに書いているように,上下巻に分けたことがまさに本書の特徴をあぶりだしている。上巻はオースティンやキプリング,カミュといった現代まで読み継がれる古典文学を帝国主義時代の時代背景とともに,その政治性を読み解くといった『オリエンタリズム』の続編的内容。それに対し,下巻では『オリエンタリズム』への批判に答えるように,「抵抗」といったものが前面に押し出されている。目次をみてみよう。

第3章 抵抗と対立
 1 ふたつの側がある
 2 抵抗文化の諸テーマ
 3 イェイツと脱植民地化
 4 遡航そして抵抗の台頭
 5 協力,独立,解放
第4章 支配からの自由な未来
 1 アメリカの優勢――公共空間の闘争
 2 正統思想と権威に挑戦する
 3 移動と移住

本書の内容については,珍しく長い大橋氏による訳者あとがきが非常に端的に解説していて,それを繰り返すことしか私にはできないのでやめておくが,前半は20世紀前半の植民地支配に抵抗する思想家の著作がいくつか検討される。フランツ・ファノンに費やされたページも多いが,私の知らなかったC.L.R.ジェイムズの『ブラック・ジャコバン』とジョージ・アントニウスの『アラブの目覚め』という2つの著作についての解説が印象的だった。そして,この2冊は日本語にもなっているので,そのうち読んでおきたい。
そして,第4章に入ると,単なる批評家・研究者としてではなく,よりよい未来を見据えたサイード本人が登場してくる。はっきりいって,サイードの本は1979年に出版された『パレスチナ問題』が2004年に翻訳されるのを待つだけで,1990年代後半に原著が出版されたようなものはあまり読まなくなっていた。しかし,やはり本書は素晴らしい読書体験であった。

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