« 思考のフロンティア ナショナリズム | トップページ | その街の今は »

芸術鑑賞2つ

6月10日(日)

この日は妻が一人の用事があるというので,息子と2人で出かけた。リヒター論文はひとまず終わりに近くなっているが,一つだけ確認したいことがあり恵比寿へ。リヒターの絵画はフォト・ペインティングという技法を用いており,元となった写真がある。その写真は新聞や雑誌からの切り抜きだったり,家族写真だったりするのだが,そうした作品にまつわる情報を整理したカタログ・レゾネというものの第1巻が昨年発行されたという。第1巻は1962年から1968年までで,私が対象としている風景画はまだあまり描かれていない時期ではあるが,どういうものか確認したかった。調べてみると,東京都写真美術館の図書室にあるというのだ。ということで,久し振りに恵比寿を訪れる。またまた,私の体力不足解消に渋谷からベビーカーを押して歩いていく。息子も狭い空間である電車での移動よりも,風景がゆっくりと過ぎ去るのを観ることができる方がいいのだと思う。久し振りにリキッドルームの脇を通り過ぎると,壁面に「ジャズ&オルタナティブ」などと書かれている。ジャンルの専門化をはかっているのだろうか。
図書室は写真美術館の4階にあり,意外にも初めて入る。日曜日だったが,利用者は3名のみで,息子も比較的おとなしかったので,助かった。といっても,じっくり閲覧するほどの余裕はなかったが,観るだけでも価値はあった。Amazonでも2万円しない価格で出回っているが,リヒター研究者なら手元に置いておきたい1冊。印刷なども含め,非常によくできています。しかし,既に600ページもあるリヒターの『テクスト』と,860ページある『アトラス』,それに2冊の画集がわが家にはあり,さすがにこれを買うのはためらいます。せっかく写真美術館まできたので,一つだけ展示を観ていくことにした。

東京都写真美術館 川内倫子展 照度 あめつち 影を見る
ちょうどやっていたのは,妻も好きでわが家には写真集も数冊ある,川内倫子。数年前にも私は一人で写真展にいったことがある。知名度でいえば彼女はかなり高い写真家だと思うが,当時は青山通り沿いのギャラリーで無料で展示をしていた。今思うと不思議に思う。写真美術館も1フロアでは決して広い展示室というわけではないが,彼女にははやりこのくらいの規模があっているようにも思う。写真美術館はベビーカーの貸し出しもしているくらいで,子連れもOKだが,さすがにゆっくりは観られない。でも,なかなかいい展示でした。

6月14日(木)

最近,京王線のホームの広告スペースに神奈川県立近代美術館葉山の展示のポスターが貼ってあり,目についていた。しかも,それは日本人画家であったが風景画であった。今回のリヒター研究のなかでいくつか日本の風景画についての論文も読んでいたので,ちょっと気になった。神奈川県立近代美術館といえば,私の友人が働いている。彼女はアクセサリーのデザイナー(制作も自分でします)であり,わたしたち夫婦の結婚指輪も彼女の作品。昨年,調布の多摩川河川敷で開催された「もみじ市」に出店していたので遊びに行き,久し振りに会った。その時に妻がアクセサリーを注文していたので,その引き渡しも併せて遊びに行くことにした。当然息子も連れて行くので,行き帰りの電車のことを考えて平日にしようと決めたが,翌週は天気が悪そうなので,急遽今週の金曜日の休みを木曜日と交換した。おかげでいい天気。
川崎で乗り換えて京浜急行で新逗子まで。葉山までの公共交通はバスしかないが,逗子マリーナにあるレストランで昼食をとるために途中下車。海辺の素敵なレストランで,量は控えめだが,味はなかなかのランチセット。再度バスに乗って美術館まで。

神奈川県立近代美術館葉山 松本竣介展 生誕100年
松本竣介という名前は聞いたことがなかったが,生誕100年ということは,今年100歳で亡くなった進藤兼人監督と同い年ということか。とりあえず,前知識なしに展示を観始める。さすがに,いつもは眠くなる時間の息子を連れて3人での鑑賞は断念し,息子を妻に預け,まずは私が一人で鑑賞。
生誕100年ということで,1912年生まれということになるが,けっこう作品数が多く,みょうに1940年前後の作品が多いことに気づく。途中まできて,ようやく彼がわずか36歳で亡くなってしまったことを知る。思ったよりも風景画がけっこう多く,最初期の頃は田舎の風景(彼は岩手県出身とのこと),17歳で上京して都市の風景に関心を持ったようで,写真を撮ると同時に都市風景を描く。展示のタイトルを用いれば,その後「郊外:蒼い面」という全面青いトーンの郊外風景を,「街と人:モンタージュ」という街の断片と人間とを自由な大きさで組み合わせるといった,ある意味反遠近法的な風景画をよく描いている。風景画を好む多くの芸術家は大抵,初期の頃に写実的な絵画を描き,成熟するにつれ,遠近法に縛られない創造性溢れる作品へと移行するが,彼の場合は後期の方が写実的になっていく。そして,風景のなかには人物が描かれない。なかなか研究上興味深い画家だった。しかも,センスもなかなかいい。
それに加え,今回の展示のために作られたカタログも作品が267ページ,解説や論考を含めると400ページを越える立派なもので,しかも値段は2600円と非常にお得。岩手から始まって,葉山の次は宮城,島根と回って,11月23日から来年1月14日までは世田谷美術館で開催されるということですので,よろしければ足をお運びください。

観賞後,今度は妻の番で,私が息子とともに美術館を一周する。この美術館は周囲に散策路があって高台から海も見下ろせます。この日は雲一つなく,美しい水平線が臨めました。妻が出てきて一緒に息子の海岸砂浜デビューと思いきや,もう限界。私におんぶされて寝てしまいました。
帰りはちょっと川崎に寄る。ヨドバシカメラが別のビルに移動していたり,かなりキレイになっていますね。

6月16日(土)

土用日は講義の後に新宿まで出て映画を一本。もうすぐ上映終了してしまう作品。

新宿シネマート 『さあ帰ろう,ペダルをこいで
『アンダーグラウンド』などで知られる東欧の俳優ミキ・マノイロヴィッチ出演ということで観ることにした。予告編ではコメディと思いきや,けっこうシリアスの割合も大きい。舞台はブルガリア。常に社会主義とソ連の影がつきまとう社会。権力を握るものはちょっとしたことで機嫌を損ねるとその人の人生を狂わせることまでしてしまうという理不尽な社会。そんな一昔まえのヨーロッパの状況を描きながらもミキさん特有のユーモア溢れたシーンも多く,やはり観て良かったと思える作品。
ところで,この日はシネマートでも非常に狭いスクリーンでの上映だったのですが,1時間前に受付すると,前から4列は全て埋まっていると告げられる。いつも前列で鑑賞の私ですが,仕方がなく5列目の中央を確保。劇場に到着してみると,なんと団体さん。しかも,多くの人が視覚障害者のようで,盲導犬もいたりします。皆さん,イヤホンを渡され,音声ガイド付きでの鑑賞。恐らく,同時通訳みたいな感じでリアルタイムで解説している人がいるんでしょう。こういう作品でもやるんだから,いいですね。映画鑑賞後には食事会もあったようです。

|

« 思考のフロンティア ナショナリズム | トップページ | その街の今は »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/54981271

この記事へのトラックバック一覧です: 芸術鑑賞2つ:

« 思考のフロンティア ナショナリズム | トップページ | その街の今は »