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古代地中海を巡るゲオグラフィア

ステファノ・マニャーニ著,久保耕司訳 2006. 『古代地中海を巡るゲオグラフィア』シーライトパブリッシング,253p.,2200円.

前の読書日記にも書いたように,今私は地理学の歴史を断片的に辿っている。そんななか,たまたまAmazonで引っかかったのが本書。古代の地理学といえば,プトレマイオスの『地理学』程度の知識しか知らなかった私。これは東海大学出版会から翻訳が1986年に出ていて,講義の中で地図の歴史の話をするために,非常勤先の大学図書館でコピーを部分的にとっていた。しかし,最近岩波書店からもパガーニという人の解説が寄せられた『プトレマイオス世界図――大航海時代への序章』という本が1978年に出版されているのを知った。イタリア語の解説文を翻訳しているのは竹内啓一。
本書の著者もイタリア人で歴史家だということだが,本書の原著タイトルは『古代世界の歴史地理学』という。訳者も地理学には無関係の翻訳家ということで,聞いたことのない出版社だが,無視するわけにはいかない。とりあえず,目次をみておこう。

はじめに
第一部 地中海
 第一章 海と大陸のインターフェイス
 第二章 環境と資源
 第三章 都市と領土:風景
 第四章 コミュニケーション
 第五章 神話,認識,地中間の空間の現れ
第二部 ゲア。陸地の認識とその表現
 第六章 陸地の探検
 第七章 世界のモデル:ホメロスの円盤から契約の箱まで

本書は古代の地理学史であると同時に歴史地理学である。つまり,はじめにと第七章で古代ギリシア・ローマ時代の学問としての地理学が語られ,それ以外はその時代の地中海を中心とする世界がどうだったのかということの地誌学的記述である。かといって,それらは切り離し得ない。そもそもが,当時の歴史地理を復元するのは,当時の地理学的著作,あるいは後年の歴史的記述によるしかないからだ。
日本語訳の本書は帯に「休日に読む一冊!」と題し,専門家ではなく一般読書を想定しており,ですます調が用いられている。また,原注が元々なかったかどうかは不明だが,訳注のみがつけられ,引用文に対する訳注は翻訳文献のみに限られている。しかし,思いの外翻訳文献が多いことにも驚かされる。名前しか知らなかったストラボンも『ギリシア・ローマ世界地誌』として1994年に翻訳が出ているし,その他有名なところではヘロドトス『歴史』,ホメロス『オデュッセイア』,ヘーシオドス『仕事と日』,プリニウス『博物誌』の他,マニリウス『占星術または天の聖なる学』,タキトゥス『年代記』やトゥーキュディデース『戦史』などもよく引用されている。
本書によれば,最古の地理学者はアナクシマンドロスだとされる。この説はエラストテネスによるものだとされるが,エラストテネスは『地理学について』と題した著書の最初の著者であるという。ストラボンによる17巻に及ぶ『地理誌』によって「ストラボンはアウグストゥスのイデオロギーを世に広めるスポークスマンになっていました。」(p.234)と,本書はよくありがちな古い地理学をノスタルジー的関心からのみ扱うのではなく,その政治性もしっかりと認識している。しかし,本書が全面的に批判的な論調であるのではなく,やはり古い地理学的なあり方に敬意を表しているともいえる。
それが,第一章や第二章の内容であり,地中海世界の自然地理学がしっかりと把握されているということである。そして,政治性といえば古代ギリシア人とフェニキア人の植民地化の話も詳しいし,第四章は現代的な意味でのコミュニケーションではもちろんなく,交通の問題である。そして,交通に関しては道路や運河が大きな政治権力を用いて建設されたこともきちんと説明されている。
といっても,訳文のせいか,全般的に優しい口調で語られるために,いろんな要素が平板的な印象を与えるため,あまり刺激的な読書ではなかったが,基礎的な知識としては地理学者にとって必須だと思われる。

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