« 古代地中海を巡るゲオグラフィア | トップページ | 鯰絵新考 »

映画5本分まとめて

8月25日(土)

日比谷TOHOシネマズ・シャンテ 『少年は残酷な弓を射る
監督は私より一つ年上の女性監督リン・ラムジー。過去の作品は『モーヴァン』を観たことがある。主演はティルダ・スウィントン。予告編でもその辺は知ることができるが,生まれた時から母親になつかない息子。むしろ,敵意さえ感じられるその息子がついに大きな事件を起こしてしまう,という展開。予告編では明らかにされていないが,本編ではその原因が暗示されている。つまり,この子どもは母親にとって望まないものだった。つまり,母親は息子の誕生を心から喜べず,また生まれた後の子育ての世話もギリギリ。そんな母親が息子に対して愛情を抱けないことを察知してか,息子はなかなか言葉を覚えず,おむつも取れない。
最終的には幼い頃に父親から与えられたおもちゃの弓矢から興味を抱いて年齢を重ねる毎に練習していたアーチェリー(?)を使い,高校生の時に高校の体育館で同級生たちに対する無差別攻撃で少年院送りになる。その時同級生のなかで死者が出たかどうかは明らかにされていないが,母親が自宅に帰ると,父親と妹が矢で殺害されていた。そんな事件を起こした生徒の母親ということで,彼女は行く先々で恨まれるという物語。日本でこんな題材を映画で描くとしたら本当にシリアスな展開になるに決まっているが,本作が素晴らしいのは,なかばコメディタッチで描かれていること。しかし,それは実際に起こりえる(起こった)事件に対する冒涜には全くならずに,アイロニックにこうした事件の悲惨さを伝えていると思う。しかも,これが稀に起こる出来事としてではなく,誰にでもありえる感情,誰にでも起こりえる出来事として,鑑賞者に想像させる作品だ。
自分の子どもに対する愛情は普遍的なものだと思う。しかし,それが必然的に肯定的な,積極的なものであると限らない。そして,それが普遍的なものである以上,努力してその性質を変えられるものではないことも真実かもしれない。本作の母親は必至に息子を愛する努力をした。一度だけ母親が寝る前に読み聞かせたロビン・フッドを息子が気に入って,母親に甘えるシーンがある。でも,結局はそれが仇となって,凶器としての弓矢への興味を抱かせてしまうわけだが。息子の母親を困らせるという憎しみに似た行為も実は歪んだ愛情表現だという,まあそんな作品です。

8月26日(日)

渋谷ユーロスペース 『汚れた心
翌日も暗い映画を観た。ブラジル映画に伊原剛志が主演し,他にも常磐貴子や奥田瑛二などが出演しているということで話題になっていた。この作品は第二次世界大戦の終戦前後におけるブラジルの日本人街の話。奥田演じる男性は軍人だが,当時のブラジルでは戦況を伝える情報が非常に限られていて,現地の日本人たちは終戦を知らされずに,この軍人を含めた人々は日本の勝利を信じている。一方で,ブラジルで骨を埋める覚悟で生活をしている一部の日本人たちは敗戦の事実を受け入れる。映画の冒頭では,ブラジル当局による日本の軍国思想の表現の抑圧から,日本人たちの愛国心の高揚を引き起こすわけだが,そのうちに日本人たちの間での軋轢へと変っていく。その軍人が武士道精神を伊原演じる男たちに吹き込み,日本の勝利を信じない者たちを殺害させるように仕向けるようになる。
その詳細はともかく,戦後ブラジルの日本人移民たちがお互いに殺し合ったということは事実らしい。その事実を知ったという意味においてこの映画はとても意義あるものだが,個人的にはもう少し深みの在る感情表現を期待したいところだ。

8月30日(木)

渋谷ル・シネマ 『屋根裏部屋のマリアたち
文化村ル・シネマは随分前に改装したのだが,それ以降観に行くのは初めて。ここもついに指定席制になっていた。平日だがけっこう込んでいます。この作品は公開されてからけっこう経つのに,人気のようですね。こちらは予告編通りの内容。主演のファブリス・ルキーニは2001年作品『バルニーのちょっとした心配事』でも若くて奇麗な女性にもてる役どころだったが,さすがに50歳台になって老けましたね。でも,今回もスペインから来た若いメイドと最終的には恋に落ちるという役どころ。日本的な感覚では決してモテ男の外見ではありませんが,フランス本国ではどうなんでしょう?このメイドを演じるナタリア・ベルベケはなかなか魅力的。と思ったら,なんと私も観た『ドット・ジ・アイ』という作品で,ガエル・ガルシア・ベルナルの相手役をつとめていたとのこと。ちょっとベタな感じのラヴコメではありますが,フランス映画っぽい軽い感じが良し。

9月1日(土)

つい最近まで会社で暇こいていたのに,急に忙しくなった。というより膨大な作業量がなぜか私だけにふりかかってきた。しょうがないので,土曜日も出勤しようと朝早く会社に行くと,CADが立ち上がらない。私の会社はネットワークライセンスのCADを使っているが,なんとこの日はCADライセンスサーバーのメンテナンスの日だとか。その作業はCADが使えないと話にならないので,仕事はできない。
でも,この日は映画サービスデイ。ということで,急いで観られる作品を探して新宿へ。

新宿シネマート 『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々
『扉をたたく人』のトム・マッカーシー監督作品。またまたダメ男をポール・ジアマッティが演じる。といっても,弁護士役。改めてストーリーを説明しようと思うと,なかなか面倒なことに気づく。そういう意味ではなかなかいい脚本だといえる。映画のためのオリジナル脚本だろうか。同じ主演の『サイドウェイ』が高い評価を得ていたが,本作もそれに通じるところがありますね。短い感想ではありますが,秀作です。

新宿シネマート 『かぞくのくに
続いて同じスクリーンで同じ座席で観た作品がこちら。テアトル新宿は一日一回上映になってしまったが,引き続きこちらで上映してくれていた。韓国人監督だが,舞台を日本に,安藤サクラや井浦 新,宮崎美子といった日本人俳優を中心に撮影した作品。確か,設定は1997年くらいだったと思うが,北朝鮮に移住した在日朝鮮人が,医療目的で3ヶ月という期間で一時的に来日するという設定。井浦 新演じる男は16歳で北朝鮮に渡り,25年ぶりに家族の元に帰ってきた。となると,41歳の設定だが,同級生を演じる俳優も含め,ちょっと無理がある。こういう事実があったのかなかったのか,分からないが,なんとなく北朝鮮の描き方には新鮮味がなく,映画としてもイマイチだった気がする。

|

« 古代地中海を巡るゲオグラフィア | トップページ | 鯰絵新考 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

『少年は残酷な弓を射る』は、7月に用事で上京した際、この劇場でポイントを使って鑑賞しました。ナルセさんほどには惹き込まれなくて・・・・。
上映はもう終了したようですが、8月の終わりまでロングランしてたんですね!

『汚れた心』は、今夏の湯布院の試写上映候補作品になっていたみたいです。結局、上映には至りませんでしたが。
岡山のミニシアターでも公開の予定あり。迷っているので、予告編を観て、決めようかなと考えています。

『かぞくのくに』はこちらでも公開中。先日、観てきました。
思ったほど胸に響いてこなくて・・・・。
本作は、アカデミー外国語映画賞の日本代表作品に決まりましたね。ちょっと意外な選出。どんな結果になるでしょうか?

投稿: 岡山のTOM | 2012年9月 6日 (木) 18時03分

TOMさん

湯布院レポートでお忙しい時にコメントありがとうございます。
おー,シャンテでご覧になりましたか。
あの映画館は最近TOHOシネマズに買収されてしまいましたが,私が高校生の頃にオープンして,それ以来けっこう通っている映画館です。まあ,TOHOシネマズにはなりましたが,相変わらずの独自の作品選択なので,歓迎しましょう。

『かぞくのくに』がアカデミー賞外国語映画賞の日本代表ですか。知りませんでした。外国映画ではなく,外国語映画だから,監督とは無関係に日本語作品ということですかね。

投稿: ナルセ | 2012年9月 7日 (金) 19時22分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/55503866

この記事へのトラックバック一覧です: 映画5本分まとめて:

« 古代地中海を巡るゲオグラフィア | トップページ | 鯰絵新考 »