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人間の測りまちがい

スティーヴン・J・グールド著,鈴木善次・森脇靖子訳 1989. 『人間の測りまちがい――差別の科学史』河出書房新社,444p.,3900円.

本書は随分前から読んでみたかった1冊。確か,どこかのブックオフで発見して最近購入。ここ最近,執筆中の論文関連の書籍しか読めていないが,たまたま思い立って読んだ。前から観相学に興味があって,骨相学や優生学も学んでみたいと思っていた。観相学については高山 宏氏の文章をや彼が訳したウェクスラー『人間喜劇』も読んでいたが,これらの歴史は研究者としての興味というよりは,人間として知っておくべきことだと思う。21世紀の現代になっても根拠のない人種差別は後を絶たないが,歴史的には科学がそれに力を貸していたのだから,これほど怖いことはない。そして,本書を読んでみて分かったのは,こうした研究の多くが社会史的研究であるのに対し,本書は副題にもあるように,科学史という立場を貫いているところが他の人文・社会科学的研究と一線を画する。まずは目次をみてみよう。

第1章 序文
第2章 ダーウィン以前のアメリカ人における人種多起源論と頭蓋計測学――白人より劣等で別種の黒人とインディアン
第3章 頭の測定――ポール・ブロカと頭蓋学の全盛時代
第4章 身体を測る――望ましくない類猿性の二つの事例
第5章 IQの遺伝決定論――アメリカの発明
第6章 バートの真の誤り――因子分析および知能の具象化
第7章 否定しがたい結論

科学史というアプローチを採用しているが故に,本書の構成も非常に分かりやすい。本書に一貫したテーマは,人類の優劣を,人種や民族という単位で計量化する科学の歴史である。前半は人間の肉体的な性質の測定,後半は精神的な性質の測定に当てられる。もちろん,歴史的にも測定の容易な前者から難しい後者へと移行している。本書では主にアメリカ人の研究を中心に論じている(観相学や優生学がヨーロッパ中心であるところも異なる)が,頭蓋計測学は19世紀末にまで遡れる。
その頃のことだから,頭蓋骨の大きさの測り方も非常に素朴で,ある意味で面白い。なんと,頭蓋骨そのものにカラシの種子や鉛玉を入れて計測しているのだ。
そして,上記の社会史的研究はさまざまな社会的な言説を用いて論を組み立てるのが一般的だが,本書は歴史的な研究を,かれらが用いた資料をなるべく原データにまで当たり,それを同じやり方で計算し,データ作成の誤りや,その分析手法の誤りを一つ一つ検証するのだ。その根気には敬服する。ちなみに,本書の著者は個性物を対象とした進化論生物学者だが,単線的な進化論ではなく,それを複雑化しようということらしい。また,因子分析などの多変量解析にも長けていて,本書でもその詳しい解説がある。地理学でも一時期多変量解析を好んで使用していた時期もあり,私の学部時代にはそんな教育も受けたことがある。
そういう箇所などはなかなか読み進むのが大変だったが,やはり実りある読書だった。

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