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フランス革命前後

まったく表題とは関係ない話だが,私には一つ憤慨していることがある。くだらないことだが,最近のジーンズ市場の話である。近年の人類学を中心として,人文・社会科学一般で「真正性authenticity」に対する疑いがある。簡単にいうと,「本物らしさ」というものは演出されたものであるということ(そもそも字義的にいって本物らしさは本物ではない)。例を挙げれば,一昔前に缶コーヒーのCMで「オーセンティック」という言葉が使われたことがある。基本的に缶コーヒーはレギュラーコーヒーとは別物であるが,よりレギュラーコーヒーに近い味を缶コーヒーで実現した,というようなCMである。でも,実際飲んでみれば分かるように,その商品はあくまでも缶コーヒーだ。
それは以前からジーンズ市場にもあった売り文句でもある。リーバイスのジーンズが,創業当時の商品に近い復刻版を売り出す時の文句。ヴィンテージ・ジーンズや中古ジーンズが流行ったとき,長年履き込んだ色落ち感を人工的に作り出すというのが流行った。それは現在まで引き続いている。そして,私がトゥモローランドでユーズド感覚のブラックジーンズを購入した頃に出始めたのが,単に腿やお尻に色落ちを施すだけでなく,足の付け根にできる皺を再現するような色落ち加工である。
これは瞬く間に広がっていることは,この1年間にジーンズの購入を検討したことがある人なら分かるだろう。一昔前はその色落ち感がいかに自然であるかということが重要だったが,現在ではその加工をしなければジーンズではない,といった位にエスカレートしている。皺に見える色落ち加工ではなく,皺そのものをあらかじめつけて売っているという始末。しかも,怪しげなジーンズ屋ではなく,ユニクロやGAPも当たり前のようにやっている。そして,それはチノパンやスキニー,場合によってはレギンスにまで及んでいる。
一応,社会科学者の端くれである私だから,今更オーセンティックだの自然だのを求めるわけではないが,何も加工がない普通のジーンズを探すことが一苦労,あるいはこだわりのある高価なジーンズメーカーでないと手に入らないというこの状況に憤慨するのだ。まあ,いまさらポストモダンだのというのも時代遅れだが,まさにこうした加工はユーズド感を追求するという目的を忘れ,それ自体として成立している。まさに,模倣する対象を失ってしまった模倣,シミュラークルだ。
そういうものが価値の選択肢の一つとあることはいいことだと思うのだが,それのみになっている現在の状況はどうかと思う。この時期にジーンズを履き始めた若い人たちはこれがジーンズだと思うのだろうか。ともかく,価値観の多様性を保つような努力をしていただきたいものだ。

12月28日(金)

私の勤めている会社は前日で実質的に年内の業務終了。一方の妻は金,土と出勤ということで,この2日間は私の映画見納め。

丸の内日劇 『レ・ミゼラブル
本作は上映時間が2時間半と長いので,1日で2作品を観ようと思うと,どうしても早朝からになってしまう。ということで,9:10の回で観る。『英国王のスピーチ』の監督トム・フーパーがミュージカル作品として人気の「レ・ミゼラブル」を映画化。アン・ハサウェイがこの作品のために髪を切り,減量をしたということ,そしてTOHOシネマズの作品紹介では,本作が演技中に歌の収録もするというスタイルで撮影したということを強調していたので,基本的にミュージカル嫌いな私だが,観ることにした。
まあ,結論からいうとやはり私をミュージカル好きにすることはできないかな。ミュージカルにもおそらくいくつかのスタイルがあって,私が想像していたのは,普通の演技があって,時折歌うというものだったが,本作は基本的にほとんどの台詞を旋律に乗せて歌うもの。それが感情移入を妨げていた。悲しいシーンが多かったのに,ほとんど泣かなかった。アン・ハサウェイの出番も思いの外少なかったのも残念。やはり頑張っていたのはヒュー・ジャックマン。ラッセル・クロウの出番は多かったけど,彼らしさを発揮できる場面が少なかったかも。コゼット役のアマンダ・セイフライドは今回は清楚な役である意味貴重。時代の描き方もちょっと安っぽくて残念。

日比谷シャンテ 『マリー・アントワネットに別れをつげて
引き続いて観たのがこちら。『レ・ミゼラブル』が12:05に終わって,移動する途中で前売り券を購入し,ファミリーマートで缶コーヒーとパンを一つ買って(一応平日の昼休み時間なので若干混雑),予告編上映中に席に着く。『レ・ミゼラブル』が1789年のフランス革命後の王政復古時代を舞台にしているが,こちらはまさに1789年7月15日の前後を描いた作品。レア・セドゥ演じる若い女性がダイアン・クルーガー演じるマリー・アントワネットの朗読係という設定。
こちらはヴェルサイユ宮殿での出来事がほとんどだが,実際の宮殿でのロケということもあって時代の描き方はなかなかリアルだ。門の外側の手すりがいかにも近代的だが,下手に隠したり画像処理をしないところも潔くて良し。本作は若き朗読係が王妃に心酔してしまうという内容だが,王妃の方はある貴族婦人にぞっこん。その婦人を演じるのが久し振りにスクリーンで観るヴィルジニー・ルドワイアン。レオナルド・ディカプリオと共演した『ビーチ』以来で,もう彼女も36歳とのことだが,相変わらず美しい。裸体で寝ている姿も本作では拝めます。ちなみに,主演のレア・セドゥもどこかで観たことがあるはずだが,プロフィールにある出演作品をみてもピンと来ない。今年観たばかりの『ミッドナイト・イン・パリ』にも出演していたらしいが。
まあ,ともかくフランス映画的作りが,やはり『レ・ミゼラブル』よりも私の好みです。

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コメント

「レ・ミゼラブル」は期待して観たものの、私もイマイチ乗りきれませんでした。お目当てのアン・ハサウェイの出番も少なくて。
でも彼女は頑張ってましたよね。アカデミー助演女優賞へのノミネートは確実でしょう。獲ってほしいなぁ。
 *********
『マリー・アントワネットに別れをつげて』は、こちらでも時期未定ながら公開の予定。
>予告編上映中に席に着く。   最前列だったのでしょうか?
>裸体で寝ている姿も本作では拝めます。   鑑賞予定に入れるかどうか少し悩んでいたのですが、これで迷いがなくなりました(笑)。

投稿: 岡山のTOM | 2012年12月31日 (月) 05時24分

TOMさん

大晦日にも書込みありがとうございます。

昨年はたくさんの書き込みをありがとうございました。
今年もよろしくお願いします。

アン・ハサウェイはやはりその歌声に驚きましたね。
確かに,彼女にはこの辺でアカデミー賞は取っておいて欲しいと思います。

さすがに,『レ・ミゼラブル』は日劇だったので最前列は避け,3列目にしましたが,2列目にお客さんいましたよ。

そして,シャンテでは当然最前列。あそこはどのスクリーンでも最前列で大丈夫なので,迷わなくていいです。飲食する時もさほど気になりませんし。
映像的には暗くてCGも多い『レ・ミゼラブル』より,明るくて自然なので,奇麗です。移り行く映像を眺めるだけでもいい作品ですね。

投稿: ナルセ | 2013年1月 3日 (木) 15時40分

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