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映画2本立て

2月2日(土)

そのうち報告しますが,最近の週末はなかなか映画をゆっくり観る時間が取れないが,この日は妻の出勤日だったので,前売り券を既に購入していた映画をまとめて2本観た。

日比谷TOHOシネマズシャンテ 『アルバート氏の人生
グレン・グローズがかつて舞台で演じたことのある本作が,本人の熱望により映画化が実現されたという。予告編でもその意気込みは十分感じられた。グレン・グローズといえば,怖い女とかどちらかというと派手な演技が多いが,本作は非常に地味な演技。というのも,舞台は19世紀のアイルランド。ダブリンという都市で女性が一人で生きていくために,男装しホテルのウェイターとして働くアルバート。毎日のチップをせこせこと数十年もためて小さなタバコ店を開こうと夢見る。
予告編ではホテルにペンキ塗りに来た男性をアルバートの部屋に泊めるところからアルバートの人生が大きく変わるという展開が描かれている。それは確かにそうなのだが,その展開は私が予告編から予想したものとはちょっと異なっており,それが本作の魅力にもなっている。予告編ではアルバートが女性であることを再発見し,その後は女性として生きていくような雰囲気だが,本編はそうではなく,実はけっこうな悲劇で終わってしまう。しかも,他の登場人物のうち3人の女性もやはりこの時代に一人で生きる女性として悲劇を味わう。幸い,ずる賢い一人はアルバートの死によって悲劇を免れるのだが。その3人のうち1人はホテルのウェイトレスだが,演じるのはミア・ワシコウスカ。『アリス・イン・ワンダーランド』はきちんと観ていないけど,けっこう好きな女優さん。顔つきはグィネス・パルトロウ似だと思う。けっこう骨格がしっかりしていて,目もぱっちりはしていない。でも,こういう顔つきの方が奥の深い表情ができると思う。

新宿テアトル 『みなさん,さようなら。
中村義洋監督の最新作。相変わらず主演に濱田 岳を迎えている。もちろん,この組み合わせなら面白くないはずはないが,本作はなんといっても団地の物語ってのが私にとっては特別だ。本作の設定は主人公が1968年生まれで,その団地は東京都町田市にある設定。そして私は1970年生まれで埼玉県北部の同じような5階建て箱形の団地で2歳から20歳まで育った。いわゆるかつての住宅・都市整備公団が1970年前後に次々と建設した大規模団地だ。主人公は小学校卒業時に,この団地から出ずに一生を過ごすことを宣言し,団地外の中学校には通わないことを決める。私が通った小学校も団地内にあり,生徒のほとんどは団地の子だった。本作ではそういう話はあまり出てこなかったが,私の団地に移住してきた住民の多くが同じようなライフステージで,同じような子どもの構成をしていた。つまり,私には2歳年上の兄がいるが,兄の同級生の下のきょうだいが私の同級生という構図がとても多い。
ともかく,この映画が描いているように,団地がある種の小宇宙のようなまとまりを持っていることは事実。私の場合は隣人が同級生ということはなかったが,本作では主人公の隣に波瑠演じる同級生の女性が住んでいる設定。この2人の関係が魅力の一つ。波瑠ちゃん,とても頑張っています。この2人の関係はあくまでも幼馴染みということで,主人公は密かに同級生のなかで人気のあった女子,倉科カナ演じる女性と20歳の時の同窓会で再会して付き合うことになり,婚約までする。この2人のシーンもまた魅力の一つ。決して露出は多くないのだが,それなりに歳を重ねた鑑賞者は若き頃の性の思い出に浸れる演出になっている。それは長身でハンサムな俳優が演じるよりも濱田君が演じるからこそ効果がある。私は団地外の中学校に通ったし,隣の市の高校に通学していて,最終的には大学在学中の20歳の時に一人暮らしを始めた。だから,本作との違いは大きい。そして,私が育った団地は本作で描かれるような外国人居住者の増加という話はあまり聞いたことがないが(私の母はいまだにその団地で一人暮らしをしている),それなりのリアリティをもって団地の加齢の様子を描いている。しかし,私の聞いた話では,団地出身の子どもたちは本作のように全員が引っ越していなくなったということはなく,自身が子どもを持って,親が住む近くの部屋を借りて同じ団地に住んでいるという。特に親の世代は結局子どもが独立して出て行ってもそのまま住みつづけることが多く,高齢化が進んでいるというのはよく知られて事実だが,本作ではそういう事実はあまり強調されていない。
以前岡山県の団地を舞台とした『ニュータウン物語』というドキュメンタリー作品があったが,本作は原作のあるフィクションである。だから事実とは齟齬がありながらも,ドキュメンタリーでは描き得ない面白さもある。ともかく,今後の団地をどうするかということを含めて,個人的にも社会的にも考えていきたいテーマだ。ちなみに,これを書いている日はたまたま母親のところに遊びに行ったのだが,その帰りにJR宇都宮線沿線の団地を眺めていたら,なんとエレベータが増設されているのを目撃した。5階建ての団地はエレベータを設置しなくていいということだが,高齢化が進む現在ではそういうメンテナンスをしなくては存続しないのかもしれない。

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コメント

「アルバート氏の人生」はこちらのミニシアターでも公開されました。ラストは苦さと共に救いもあり、悪くなかったです。
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私が神戸で観た「みなさん、さようなら」は、日記にコメントをくれたように、ご自身の団地暮らしの思い出と色んな面で結びつく興味深い鑑賞になったようですね。それにしても、波瑠ちゃんもカナちゃんも良かったなぁ(笑)。中村監督の次作にどんな女優が起用されるのか楽しみでなりません。(「ニュータウン物語」の存在は知りませんでした)

投稿: 岡山のTOM | 2013年2月12日 (火) 03時12分

TOMさん

さすが,『アルバート氏』もすでに鑑賞済みですね。
そうそう,私の日記では悲劇と書きましたが,意外と後味は悪くないところがこの作品の魅力でもあります。

『ニュータウン物語』も機会があれば是非ご覧くださいな。
岡山は地元なので,またどこかで上映会があるかもしれませんね。

投稿: ナルセ | 2013年2月12日 (火) 20時23分

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