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地理学方法論

リチャード・ハーツホーン著,野村正七訳 1957. 『地理学方法論——地理学の性格』朝倉書店,583p.,4800円.

20世紀前半の地理学の大著、ようやく読みました。今投稿中の論文で思いがけず地誌学=コログラフィについて知らなければならなくなり、当然コロロジーを主張していたハーツホーンを無視することはできなくなった。以前にもこの読書日記で書いたように、ひとまずは入手しやすい『』を先に読んだのだが、その後本書がAmazonで比較的安く出ていたので購入。早速読むことになった。しかし、ともかく長い。特に後半はあまり私の興味を引くものではなく、読了するまでにかなりの月日を費やしました。

ちなみに地理学者には有名な話ですが、日本語訳にして600ページ近い本書、初めて印刷されたのは学術雑誌。普通、学術雑誌といえば1冊に論文が何本も掲載されるものですが、なんとこの文章が2冊分を全て費やして掲載されたというから驚き。まずは目次から。

第I章 序論

第II章 歴史的発展からみた地理学の性格

第III章 歴史的発展コースからの偏向

第IV章 地理学はコログラフィ的科学であるという歴史的概念の証明

第V章 景観——”Landschaft”と”Landscape”

第VI章 史学と地理学との関係

第VII章 地理学の取扱う事象を感覚によってつかまれる事物に限定すること

第VIII章 地理学においてデータを選択する場合の理論的基礎

第IX章 具体的単位体としての地域概念

第X章 世界を地域わけする方法

第XI章 地理学はいかなる科学か

第XII章 結論——地理学の性格

ということで、地理学者にとっては有名な本書ですが、1939年に原著が発表され、その後シェーファーという人物による批判論文が発表されるのと平行して、1950年代からはハーツホーンの主張する個性記述的な地理学とは相反する、法則定率的な地理学が米国で登場します。それを「計量革命」と呼び、計量地理学と称します。もちろん、それが日本に輸入されるのは時間がかかりますが、そのなかでも統計学的手法を駆使した研究は日本にもけっこう根付き、私が大学に入学した1980年代にはその手の論文がけっこう掲載され、私の大学時代は1990年代に入っていますが、授業でもかなり読まされました。

つまり、私が地理学の教育を受けた時代は、ハーツホーン地理学の批判の上に成り立っていた計量地理学もがすっかり勢いを失って、もちろんそれに対してなされた批判も一昔前という状況でした。なので、計量地理学については多少学ぶものの、それ以前の地理学はほとんど学ばなかったという始末。本書の存在は知っていたが、その中身はほとんど知らず、逆に新鮮な気持ちで読み始めたわけです。

冒頭は数世紀前の地理学の歴史が語られます。日本にも野間三郎という地理学史の研究者がいて、私も修士課程に入ったころはけっこう読んだものです。そこで学んだ知識はほとんど本書に含まれていて驚く。まあ、ハーツホーンの地理学の基礎はヘットナーというドイツの地理学者の影響を大きく受けているということは知っていたが、ドイツに限らず19世紀のヨーロッパ地理学を丹念に検討しています。そして、米国でハーツホーンと同様にドイツ地理学の影響を受け、ドイツ地理学の主要概念「景観」を使いながら研究を行っていたサウアーを目の敵にするように、景観概念を徹底的に批判します。ここは面白かったので、最近発表した私の論文の中でも使わせてもらいました。

ハーツホーンが主張する地理学的主題は「地域的相違areal differentiation」であり、彼が強調する地理学は系統地理学に対する地域地理学、あるいは地誌学、コロロジーであるわけですが、これまで漠然としていた地域地理学、地誌学(コログラフィ)、コロロジーの関係がなんとなく分かってきます。

そして、当時の地理学ですから驚くべきことではありませんが、人文地理学者でありながら、自然地理学および自然に対する洞察がとても深く、近年の自然に関心を持つ人文地理学のあり方において、再びハーツホーンを参照する必要があるのかもしれません。

ともかく、非常に得るところの多かった読書でした。

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