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君主論

マキアヴェッリ著,河島英昭訳 1998. 『君主論』岩波書店,387p.,900円.

読み終わったのはちょっと前。仕事で羽田空港に行った時、途中で持参した論文コピーが読み終わってしまったので、川崎で京急から南武線に乗り換える途中に駅ビルに入っていた有隣堂に寄って購入した。『君主論』は以前から読んでみたいと思っていた。この手の本は、複数の出版社が訳者を違えて出しているため、どれを読んだらいいのか悩む。中公クラシックス版がいいかなと思っていたのだが、結局岩波文庫を買ってしまった。まずは目次から。

第1章 君主政体にはどれほどの種類があるか、またどのようにして獲得されるか
第2章 世襲の君主政体について
第3章 複合の君主主体について
第4章 アレクサンドロスに征服されたダレイオス王国で、アレクサンドロスの死後にも、その後継者たちに対して反乱がおきなかったのは、なぜか
第5章 征服される以前に、固有の法によって暮していた都市や君主政体を、どのようにして統治すべきか
第6章 自己の軍備と力量で獲得した新しい君主政体について
第7章 他者の軍備と運命で獲得した新しい君主政体について
第8章 極悪非道によって君主の座に達した者たちについて
第9章 市民による君主政体について
第10章 どのようにしてあらゆる君主政体の戦力を推し量るべきか
第11章 聖職者による君主政体について
第12章 軍隊にはどれほどの種類はあるか、また傭兵隊について
第13章 援軍、混成軍、および自軍について
第14章 軍隊のために君主は何をすべきか
第15章 人間が、とりわけ君主が、褒められたり貶されたりすることについて
第16章 気前の良さとケチについて
第17章 冷酷と慈悲について。また怒られるよりも慕われるほうがよいか、それとも逆か
第18章 どのようにして君主は信義を守るべきか
第19章 どのようにして軽蔑と憎悪を逃れるべきか
第20章 城砦その他、君主が日々、政体の維持のために、行っていることは、役に立つのか否か
第21章 尊敬され名声を得るために君主は何をすべきか
第22章 君主が身近に置く秘書官について
第23章 どのようにして追従者を逃れるべきか
第24章 イタリアの君主たちが政体を失ったのは、なぜか
第25章 運命は人事においてどれほどの力をもつのか、またどのようにしてこれに逆らうべきか
第26章 イタリアを防衛し蛮族から解放せよとの勧告

結局、私が手に取った岩波文庫版はかなり新しいものであり、読みやすさよりも学術的な精確さを重視しているものだといえる。先に読んだ非常に注釈の多い『ドイツ・イデオロギー』と似ている。といっても、本書は訳者が追加した注釈は少ない。しかし、注自体は多く、それらのほとんどは外国のこれまでの版につけられた注釈から、訳者の判断でより正しい、あるいは著者マキアヴェッリの執筆意図にかなったものを掲載しているといえる。

本書の原著は1532年に出版された。ヨーロッパにおける出版事情が大きく変容する時期だといえる。これまでの、手書きで写す「写本」というものから、活字が発明されることによる印刷というものに移行する時期である。訳者の解説によれば、本書の著者原稿は存在せず、多くの写本が残されているという。1532年の出版自体はマキアヴェッリの死後5年後に出版されたということで、本書の編集自体も他人がやっていることになる。こういう状況だから、現代にさまざまな言語で本書を出版するという行為自体が一種の歴史解釈だといえる。なので、訳者はそこのところを非常に慎重に訳出作業を行っている。

さて、訳者によれば、本書は前半と後半に分けることができるという。目次をみても分かるように、前半は本書のタイトル「君主論」というよりは、「君主政体論」だという。君主そのもののあり方よりも、国の政治的あり方について論じたもので、15章辺りから君主そのものに焦点を当てていく。その以降として、政体のなかの軍事という側面に集中している。

訳者も基本的に本書の構成を、著者本人の意思に沿うものだと評価している。そのせいか、時代的な理解しにくさはあるものの、また本書が歴史的な精確さを重視しているが故の読みにくさもあるものの、基本的には論旨を理解することは難しいことではなかった。そして、現代は君主的政治よりも民主的政治が歓迎されているわけだが、決して本書に独りよがり的な暴君や独裁的な政治を感じ取ることはない。確かに、例えばある政体が別の政体を戦争などの手段を経て吸収したとしたら、その新しい君主は古い政体のあり方を残さずに主要な人物を一掃しなくてはならない、みたいな主張は現代的には残酷ではあるが、それは当時としてはやむをえない気もする。後半では特に君主の人間としてのあり方を論じていて、現代のビジネス界のリーダー論としても利用されるような内容を含んでいる。

私が本書に関心を持ったのは、よく「マキャベリズム」という言葉を目にするのだが、その言葉について説明している文章はあまり読んでいなかったからだ。あたかも自明のようにその言葉が使われる。ということで、Wikipediaで調べてみたが、日本語版では『君主論』の内容を都合のよいように解釈していると明確に書いており、その意味する内容は「目的のためには手段を選ばず」ということらしい。まあ、他人を踏み台にしてのし上がるリーダーといったところだろうか。マゾッホとサドの小説とは無関係な次元でSMという言葉が使われているのと似たようなものなのだろう。まあ、ともかく「マキャベリズム」という言葉が私のなかで自明なものになる前に本書を読んでおいてよかった。

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