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場所

瀬戸内寂聴 2004. 『場所』新潮社,341p.514円.

瀬戸内寂聴の小説を読むのは初めて。というか、坊さんとしてメディアに登場する彼女の姿しか知らない私にとって、彼女の小説って所から新鮮だった。たまたま私が場所研究者であり、場所をテーマにしている大学の講義のレポート課題図書を探している中で、タイトルずばりの本書に出会ったわけである。といいつつも、映画好きの私は今年、小説家としての寂聴さんに出会っている。それは『夏の終り』という作品が満島ひかり主演で映画化されたからだ。しかも、この映画の原作もあの寂聴さんの実体験をもとにしているというのは私にとってちょっとした衝撃だった。

そんな縁もあり、本書を課題図書に決め、早速読み始めた。本書には下記14の章があり、それぞれ実在する場所の名前をタイトルにしている。本書は彼女自身の遍歴を再訪し、当時の記憶と現在の場所の変貌を書き綴った作品。

南山

多々羅川

中洲港

眉山

名古屋駅

油小路三条

三鷹下連雀

塔ノ沢

西荻窪

野方

練馬高松町

目白関口台町

中野本町通

本郷壱岐坂

と書きつつも、荒川洋治なる人物による巻末の開設には「『場所』に登場する「私」は、瀬戸内寂聴(晴美)その人と思われる。」と書かれており、実話とは断言していない。作品中にも「ウソ」と「ホント」の堺について、作家の情夫との会話が登場する。本作においても事実か創作かを議論することは意味がない。そもそも、彼女はノンフィクション作家ではなく小説家なのだから。

前半の地名は徳島県を中心としている。四国の地理感に疎いことと、話が戦中戦後の話なので、ちょっと読みにくい。主人公は戦中にお見合い結婚し、北京に渡り長女を産む。戦後帰国したものの、不在がちな夫に代わって、夫の教え子でもあった年下の男性に恋をし、夫に告白する。そのまま離婚はせずに上京するが、何度かその男に会うために家出をする。その男の名は「涼太」といい、映画『夏の終り』にもそのままの名前で登場するが、この小説はまさしくその関係を描いた作品。『夏の終り』ではもう一人の不倫相手として小林 薫演じる「仁」というのが登場するが、これも本書で実名で登場する人物。映画では「涼太」を綾野 剛が演じているが、やはり私が映画評で書いたように、実際は満島演じる女性の方が「涼太」よりも年上で、その三角関係にあった頃の年齢としては満島だけがちょっと若すぎる。

さて、話を勝手に進めてしまったが、私が映画を観ていたこともあるが、この三角関係が描かれるところからだんだん引き込まれるようになっていった。巻末の解説にも書かれていたように、彼女には独特の文体がある。この辺りで事実関係を確認しておくと、『夏の終り』が1962年に発表され、出家して瀬戸内寂聴になるのが1972年。つまり、彼女は坊さんになる前に小説家として有名だったのだ。そして、本書は2001年に単行本として出版されているが、その前から『新潮』で連載されていたとのこと。

上にも書いたが、本書はつまり、すでに『夏の終り』などでも小説化されている実体験をした思い出のある場所を40年以上たって再び訪れるという内容。にもかかわらず、過去を語るその書きぶりは非常に鮮明で生々しく描かれている。これこそが彼女が小説家たるゆえんであり、本書でも語られている通り、一時期は毎週雑誌にその名前が載らないことはないというほどの仕事をこなしていたのだ。

特に、彼女が登場で数多くの引越しを重ねて住んでいた場所に関する知識を私が持っているわけではないが、やはりそれなりにもっている東京の土地勘に照らし合わせると読みやすい。私の受講者がこのblogを読む可能性もあるので、肝心なことは書かないが、地理学研究の素材としても豊かな内容を有する作品でした。

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