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自然の諸相

フンボルト著,木村直司編訳 2012. 『自然の諸相――熱帯自然の絵画的記述』筑摩書房,349p.1300円.

古書店で本書を見つけ、驚いてその場で購入した。フンボルトとは地理学者には「近代地理学の父」として知られている18世紀から19世紀にドイツで生きた博物学者である。フンボルトのいわゆる熱帯旅行記の一部も岩波書店の「1718世紀大旅行記叢書」に2巻本で訳出されたのが2001年から。その後も伝記が訳されたりと、地理学以外で最近注目が高いようだ。

ちなみに訳者はゲーテ研究で知られる人物ということで、ゲーテとの交流が深かったフンボルトの翻訳にも手を伸ばし始めた、というところだろうか。

本書の一部はすでに地理学者、手塚 章氏によって翻訳されている(『続・地理学の古典』古今書院,1997年)。しかし、今回一冊丸ごと翻訳されたことで、学んだことは多い。まずは目次から。

草原と砂漠について

オリノコ川の滝について――アトゥレスとマイプレスの急流地帯

原始林における動物の夜間生活

植物観相学試論

さまざまな地帯における火山の構造と作用の仕方

生命力あるいはロードス島の守護神物語

カハマルカの高地――インカ皇帝アタウァルパの旧首都

手塚氏の翻訳もある「草原と砂漠について」(手塚氏は「ステップと砂漠」とした)は手塚氏の訳を読んだときの印象が強く、本文より分量の多い脚注により、本文=文学的、脚注=科学的というゲーテ的な芸術と科学の融合という試みを強く印象付けた。手塚氏の解説文を再読はしていないが、恐らく1808年の初版からの訳出だったと思う。初版ではこの文章の他に2,3の文章しか収録されてない、小冊子であったという。

しかし、本書はその後も改定を重ね、1826年に増補再販、1849年には「事実上の第二巻」(p.24)が出版され、本訳書はそれらを1冊の作品とみなし、上記の7つの文章を収録している。こういう事実は知らなかった。しかも、第二版、第三版と長い間隔がそれぞれ空いており、フンボルトの作品の中では長く愛読された本であることも分かる。

さて、そういう史実を知るという意味では、本書の読書から学ぶことは多かったが、本文はなかなか頭に入ってこないものだった。旅行記的な文章から、自然地理学のトピック的な各論、そして方法論的な文章まで含んでいるのに、どれも活字が私の目の前をさらさらと流れていく感じがした。

やはり、一応地理学者としての私には、地理学的な観点からの翻訳である手塚氏の翻訳の方が、ゲーテ的要素に着目している木村氏の翻訳よりも読みやすかったのかもしれない。そして、手塚氏があえて本書を丸ごと翻訳しなかったのかということも説明できるのかもしれない。

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