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地人論

内村鑑三 1942. 『地人論』岩波書店,216p..

ここまでいくつかの読書ノートで書いてきたように,とある大学の講義でこの内村鑑三の『地人論』をとりあげ,それを歴史的な背景とともに理解しようという試みをしている。ようやく本題の本書に辿り着いたわけだが,それほど分量のないにもかかわらず,説明には3コマを費やした。予想した以上に内容の濃い本だった。まずは目次から。

1章 地理学研究の目的

2章 地理学と歴史 その1 総論

3章 地理学と歴史 その2

4章 地理学と摂理

5章 亜細亜論

6章 欧羅巴論 各論

7章 亜米利加論

8章 東洋論

9章 日本の地理とその天職 結論

10章 南三大陸

一応,一般的には第1章から第4章までが総論,第5章から第8章までが各論,第9章と第10章が結論とされる。しかし,その第1章から続く論理は明確で,一見第10章の配置に疑問がわくが,読んでみるとすっきり理解できる。

本書は明治27(1894)年に『地理学考』の書名で出版されたもので,地理学書である。3年後に『地人論』と改名されたが,本文にほぼ変わりはない。よく知られているように,またこの読書ノートでも彼の伝記を紹介したように,内村鑑三はキリスト教の伝道者として生涯活動した人物。札幌農学校時代には水産学を志したが,地理学に関する書物は本書のみである。

しかし,農業経済学を志すなかで地理学にも大いに関心を示していた新渡戸稲造は内村と農学校の同期であるし,同じ農学校の後輩としてはやはり地理学書として書かれた『日本風景論』の志賀重昂がいる。また,この二人と関係する人物としては『人生地理学』を書いた牧口常三郎(創価学会創始者の一人)もいたりして,国粋主義が流行(?)するなかで,日本のナショナリズムと地理学というのは強く関係していたといえる。

そんななかでも,例えば福澤諭吉『世界国尽』などが地理的知識の羅列でそれを丸暗記させようという書き方であり,志賀重昂『日本風景論』が英文書の無断翻訳を一部に含むのに対し,内村の『地人論』は参照文献への忠実な言及と,読書で得た知識を自分なりに咀嚼して,また彼の本職であるキリスト教の教義に従った一貫した論理で構成された著書となっており,非常に魅力的な書である。

本書には近代地理学の創始者の一人として有名なドイツのカール・リッター(本書中の表記はリッテル)も登場する。リッターの著作はほとんど日本語になっていない(手塚 章編訳『地理学の古典』に一部あり)ので,その全貌は精確には分からないが,教科書的には「神学的目的論」を含むものだと習う。内村の地理学を読んで,まさにそんな感じがした。「摂理」や「天職」などという言葉を用い,神が造った地球上で,また神が造った人間が,その地球上で地方によって異なる自然環境に応じて,そこに住む人間が与えられた天職を全うし,歴史のなかでその役割を果たし,将来的に地球が完全形に向かうという物語が本書に描かれる。

その内容は,確かに1942年版の岩波文庫に解説を寄せた鈴木俊郎が「地政学」と呼ぶのに相応しいし,また現代の地理学的ベストセラーであるジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』のように,大陸の形状や海岸線,山脈の方向や大河の流れなどから人類を大陸別の性格に分けるという大胆な試みは人種差別の危険性すら孕む,ある意味で環境決定論でもある。

まあ,それは時代的な制約だとしても魅力的な地理学書であることは変わりない。

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