« 廃藩置県(中公新書1986) | トップページ | 理論地理学ノート »

失われた景観

松原隆一郎 2002. 『失われた景観――戦後日本が築いたもの』PHP研究所,233p.700円.

以前、多摩市が企画した連続セミナーに参加したことがある。景観という概念は地理学でも主要な概念だが、そのセミナーは「〈景観〉を再考する」というタイトルで、有料のセミナーだったが、参加した。というのも、そのセミナーの初回は確か「メディア」がテーマだったと思うが、吉見俊哉、若林幹夫、大澤真幸といった東大社会学の面々が登壇した魅力的なもので、参加していたのだ。

「〈景観〉を再考する」には地理学者の荒山正彦氏も登壇していた。その第一回目の登壇者が松原隆一郎だった。その内容はよく覚えていないが、このセミナーの内容は青弓社ライブラリーとして出版されるようになっている。それ以来、私にとって松原氏の景観論は胡散臭いという印象を与えていて、本書が出版された時も読む気も起こらなかったが、景観をテーマにした講義で学生に読ませるレポート課題図書として設定することとし、読むことにした。

序章 生活圏における景観荒廃

第一章 郊外景観の興亡

第二章 神戸の市政と景観

第三章 真鶴町「美の条例」の理想と現実

第四章 電線地中化問題

終章 世紀末的景観のはじまり

まあ,予想通りというか,著者は日本における日常景観に不満たらたらで,その原因と解決法を突き詰めようとする。事例として挙げられているのが第二章から第四章までの三つで,一つ目が著者の故郷だという神戸。震災復興から高架のモノレール,六甲アイランド線の建設をめぐる論争。二つ目は,神奈川県真鶴町の景観条例の事例。真鶴町では,突然建ち始めた斜面に建つマンションを食い止めるために,独自の条例を作ったという話。三つ目はタイトル通り,電線地中化をめぐる現状と課題。

一応,レポート課題にしているのであまり詳しいことは書けません。私は著者の本業の文章を読んだことはないが,一応経済学者らしい。でも,不思議なことに本書の結論は日本は経済性を優先させたために景観が荒廃したのだという。なんかそこにつきるんですよね。

確かに,きちんとした根拠に基づいて,整然と論を進めているところは研究者なのだが,どうにも結論ありきの感が否めない。景観概念についてもさほど深く議論するつもりはさらさらないし,根拠とされているデータも場合によってはスケール感などが適していないような箇所もいくつかある。やはり予想通りというか,否定的な私の印象を覆すほどの説得力はなかった。

|

« 廃藩置県(中公新書1986) | トップページ | 理論地理学ノート »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/61561398

この記事へのトラックバック一覧です: 失われた景観:

« 廃藩置県(中公新書1986) | トップページ | 理論地理学ノート »