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編集専門委員について

日本地理学会の学会誌『地理学評論』の「フォーラム」という雑文のコーナーに以前「学会誌のあり方についての緒論」という文章を掲載した(この文章はまるごとこのblogにも掲載しています→こちら)。このコーナーは文字数も限られているので,以前からいいたかったことを連載のように継続的に投稿していこうと考えていたわけだが,そう,思うようにはいかなかった。

続編として書いた文章はけっこう苦労してデータを集計したりもしたのだが,掲載不可との通知を受け取った。しかし,会員の学会に対する不満を公表する場もないのも民主的ではないと思い,1年前の投稿から読み直し,こうしてこの文章も図付きでこのblogに掲載することとした。まあ,このblogの読者は決して多くはないし,地理学者ではもっと少なくなるだろうが,記録のためにも公にしておきたいと思う。

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編集専門委員について

成瀬 厚

前稿で筆者は他学会での議論を参考に,『地理学評論』の査読・編集のあり方に関していくつかの提言を行った(成瀬 2014).そのこととは直接関係はないと思われるが,20144月から電子ファイルでの投稿が原則となり,論文審査にかかる時間が短縮されることが期待される.よりよい学会誌を目指すために,前稿で指摘した3点のうち,本稿では2点目の編集委員会の役割について,そのなかでも,今回は各委員の状況について考えてみたい.

「閲読者に関する内規」によれば,閲読(いわゆる査読)を行うのは,「編集委員以外の2名の閲読者」(いわゆる外部レフェリー)および担当編集委員の3名となっている.外部レフェリーの選出に関しては個々の投稿論文から編集専門委員会が決定するため,編集専門委員の責任によるところが大きいといえる.「日本地理学会細則」によれば,各専門委員長は理事の内から理事長が指名し委嘱し,その他の委員は各専門委員長が指名し,理事長が委嘱する,とある.つまり,誰が決めるかについては規定されているものの,どのような基準に基づいて選出するかについては明文化されていない.

編集専門委員の氏名は毎号の『地理学評論』に掲載されている.歴代の委員について確認すると,副委員長が次期の委員長になっていることが分かり,上記の細則は字義通りのものではなく,副委員長の決定がすなわち次期委員長の決定となっている実態が分かる.また,委員長,副委員長以外の委員についても,引継ぎの関係からか,23名が2期(1期の任期は2ヵ年度)連続で担当していることが分かる.

日本地理学会は『地理学評論』誌上で各専門委員の活動を報告しており,編集専門委員会についても,現在では8月を除いて毎月開催されている編集会議について報告されている.その報告には毎回の出席委員の姓が記載され,出席率が確認できる.図1は『地理学評論』が隔月発行になってからの3期分6ヵ年度の編集会議への委員の出席状況について整理したものである.これによれば,出席率が6割未満の委員が6割を占めていることが分かる.

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1 編集専門委員の編集会議出席率

こうした傾向からか,編集専門委員の人数は2008-2009年度の17人から,2010-2011年度の18人,2012-2013年度の21人と増加している.日本地理学会では対面による編集会議を重視しているようで,委員は関東地方在住の会員から選出されている.編集会議を欠席した委員に対してどのような報告がなされているのかは不明だが,ほとんど出席しない委員が少なくないことや,委員長と副委員長を含めて4人で開催された編集会議(201312月,201110月,20102月)があったことも確認できる.

委員に選出された会員でも,編集会議への出席が難しければ辞退することも可能であろう.また,受諾後でも任期中に出席しにくい状況になれば退任することはできるのだろうか.『地理学評論』誌上で毎年報告される「地理学評論編集専門委員会から」によれば,近年の年間審査論文本数は130本程度(2011年約130編,2012年約130編,2013年約80編)とされている.委員長・副委員長を除いた16人程度の委員が均等に分担すると考えると,各委員は年間述べ8本程度の審査を行う計算になる.複数の論文を平行して審査することを考えても4割未満の会議出席というのは問題があるものと思われる.その分,出席回数の多い委員への負担が大きいということだろうか.

続いて,選出された委員の資格について考えてみたい.日本地理学会の学会名簿を用いれば委員の年齢を確認できる.それによれば,最年少の委員でも30歳台後半であり,大学院生での委員選出はおそらく例がないと思われる.また,委員の所属のほとんどは大学での常勤職である.

多くの者が指摘しているように,日本地理学会会員は大学への就職前の大学院生時代に学会誌に多く論文を掲載し,就職してからは学会誌への掲載は減少する.矢ヶ崎(2005)によれば,30歳台後半の会員による論文掲載数は20歳台後半に比べて半数以下となる.このことを踏まえれば委員の多くが論文の掲載先を学会誌から別の媒体に変更していると予想することはできる.図2では各委員が『地理学評論』に掲載した論説・総説・短報のうち,単著あるいは筆頭著者の論文本数を示した.

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2 編集専門委員の『地理学評論』掲載論文数 

これによれば,『地理学評論』への論文掲載数が1本以下の委員が6割強を占めていることが分かる.一度も掲載したことのない委員が2割弱いることも確認できる.一方,1995年以降の学会賞(特に奨励賞)を調べてみると,48人の委員のうち7人が学会賞受賞者であり,1965年以降生まれの委員25人の3割を占めることが分かる.学会賞受賞の実績が委員選出の一つの基準となるのだろうか.

もちろん,これは『地理学評論』に限定した論文数であり,各委員の研究業績を示しているわけではなく,当然『地理学評論』への論文掲載数が少なくても優れた地理学者は少なくない.ただ,ここで問題としたいのは,『地理学評論』に投稿された論文を審査するには,自らが投稿した経験をどれだけ有しているかによって大きく左右されるのではないかということである.

『地理学評論』には7つの論文種別がある.掲載論文数が少なければそれだけ執筆した論文種別数も少なくなる.理念的に論文種別について理解しているのと,実際にその種別で執筆した経験を有しているかでは大きな差がある.また,大学院生時代における投稿は,委員会とのやりとりを指導教官と相談のうえで進めることもできる.投稿規程も度々改定されることの意味合いも,継続的に『地理学評論』に投稿している経験を有しているか否かで大きく異なってこよう.

ここまで,最近の編集専門委員について,編集会議への出席状況と『地理学評論』への論文掲載について言及してきたが,筆者は決して委員選出の基準にそれらを盛り込むべきだとは考えていない.無償による編集専門委員の仕事は,年間8編程度と想定される閲読作業など,決して負担の小さいものではない.だからこそ,編集専門委員に対する厳しい意見は抑制されがちであるのかもしれない.しかし, J-STAGEのようなツールを用いれば本稿のような調査は会員誰にでも容易であって,それは毎年『地理学評論』誌上で閲読者の氏名を公表していることから,閲読者についても同様な調査が可能であるということを,編集専門委員や閲読者は自覚して査読を行って欲しいと訴えたい.

文 献

成瀬 厚 2014. 学会誌のあり方についての緒論.地理学評論 87: 73-76

矢ヶ崎典隆 2005. 地理学研究者の論文生産年齢.地理学評論 78: i-iii

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