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分類という思想

池田清彦 1992. 『分類という思想』新潮社,228p.,980円.

「地名の政治学」というテーマで最近いろいろ読みあさっている。先ほどの読書日記でも地名が持つ「空間的内包的階層関係」ということを書いたが,要は,下位のものを集めて上位の実態に名前をつけるという事態は,植物分類が典型的なものだといえる。しかも,適当な分類体系ですまされるものとは違い,生物学において分類学はその下位分野に位置づけられる。

以前から関心はあったので,今回2冊ほど一般向けに書かれた本を購入。こちらは新潮選書の一冊。著者の名前はどこかで聞いたことがありましたが,調べてみたら,現在でも独自の活動をなされている人だそう。本書でも「構造主義生物学の俊英」と書かれていますが,かなり面白い人物のようです。

第一章 名付けることと分類

第二章 何をどう分類するのか

第三章 進化論が分類学に与えた衝撃

第四章 新しい分類学を求めて

第五章 まとめ

本書の後半は生物学の基礎から専門的な話までが中心になってきてかなり読みにくい部分があるが,導入としての前半部はかなり大胆な議論。フーコーの『言葉と物』も出てきますが,「なまえ」の話から,「コトバ」に関する議論まで,言葉への比重がかなり高い議論ではありますが,面白い。名前に関する議論はついには資本主義と社会主義にも及ぶ。1991年の湾岸戦争が本書が執筆された当時の最新の大規模な戦争だが,それを受け,「ハイテク兵器による軍事的勝利は,問題の解決ではなく,実は泥沼化のはじまりなのだ」(p.41)とまでいってのける。まさにテロへの戦争を予告しているかのように。

本書の出版時点では,クリプキの『名指しと必然性』は日本語訳が出版されていたが本書での言及はない。しかし,固有名の議論で著者は固有名と一般名の区別はそれほど明確ではないと主張する。ただし,その決定的な違いは時間の非可逆性だという。

分類学というのは生物学に限定されず,基本的には複数の対象に対し,両者の類似性を比較するというもの。ある対象に対して似ているか違っているかというのはいろんな場面で直面する問題ですが,著者が「みにくいアヒルの子の定理」として紹介している議論は面白かった。真偽のほどは判断できないが,それによれば,類似性の尺度というのは基本的に得られないということらしい。

第二章からは本格的な生物分類に話が移りますが,アリストテレスから始まります。そしてもちろんリンネの話があり,第三章で進化論が登場します。進化論の登場で分類学は(1)表形学(数量分類学),(2)進化分類学(総合分類学),(3)分岐分類学と3つの学派に分れているという。そして,後者2者をあわせて「系統分類学」ともいうらしい。そういえば,私が大学時代に受けていたのは系統分類学でした。ともかく,これまで生物種間の際を分類するという行為は,神による創造をベースにしていたわけですが,進化論以降は元一緒だったものが,進化の過程で分れたと考え,分類はその過程の歴史を再現することによって精確に行えるということのようです。

そして,とりあえず著者はどの立場も,特に最後の分岐分類学の立場を批判していきます。私がもう一冊買ったのは三中信宏『分類思考の世界』という本ですが,本書のなかで著者はこの「若い分岐分類学者」をこき下ろしています。進化論に基づく分類というのは理念としては非常にもっともらしいのですが,人間が観察できるのはあくまでも化石と現在生きている生物にすぎない。長い時間をかけて進化を遂げ,別の種になったその歴史を人間は直接観察することはできず,あくまでも観察できるものから推測することしかできず,またその年代も推測の域を超えない。

ともかく,著者によると,分類という行為において,分類されるべき対象が自然にその状態であり,それを発見するかのように振る舞うことが誤りだという。考えるべきは分類すべき人間の側であり,それを認識すべきだという。本書の最後には「構造主義分類学の提唱」とあるが,かといって従来の分類学とは全く違う画期的な方法を著者が用意しているとはいえない。この辺りはある意味では堅実だといえる。

生物学者ではない私は基本的に著者の言い分に賛成する。しかし,最後に疑問として残るのは,生物学の話をするときの基本単位は「種」だと思うのだが,前半になされている固有名論との関係から,著者は種につけられた学名を固有名だとみなしているのか,ということだ。といっても,著者は固有名と一般名はそれほど違いないと主張し,一般名に非可逆性はないといっているので,おそらく種名は一般名なのだろう。

その辺りの議論,すなわち生物個体と種の関係についてはもう少し議論が欲しかった。ともかく,期待した以上の収穫のあった本でした。

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