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現代地政学

コーリン・フリント著,高木彰彦監訳 2014. 『現代地政学——グローバル時代の新しいアプローチ』原書房,375p.3780円.

私も翻訳に参加した訳書。出版されて1年以上経ちましたが、ようやく通して読みました。本書の原著は2006年に出たもので、翻訳に際し、著者に連絡を取ったところ、改訂版を出す予定だから、翻訳するのであればそちらにして欲しいとのことで、原著者から出版前の改定稿を提供してもらい、当初は米日同時刊行を目指していた。他の訳者は分からないが、私は担当章の訳を終え、担当者のキャンセルなどもあったと聞いていたのでもう1章の翻訳も引き受け、予定された締め切りには間に合わせていた。しかし、結局原著改訂版は2012年に発行され、その後ずるずると日本語訳は発行されなかった。まあ、日本の地理学界ではこういうことはままありますので、あきらめかけてた頃、急に出版の連絡が来て、昨年出版された。そんなこともあって、出版された嬉しさもあったが、イマサラ感があり、通して読む気が起きなかったのだ。

ちなみに、私が担当したのは3章と5章です。

序章

1章 地政学を理解するための枠組み

2章 地政的行為:地政的コードという概念

3章 地政的行為の正当化:地政的コードの表象

4章 地政学をナショナル・アイデンティティに埋め込む

5章 領域的地政学:世界政治地図の揺らぐ基礎?

6章 ネットワーク地政学:社会運動とテロリスト

7章 グローバルな地政的構造:枠組みを形成する主体的行為

8章 環境地政学:安全性と持続可能性

9章 扱いにくい地政学:主体的行為と多様な構造

私が翻訳したのは2章分だけでしたが、とても多くのことを学びました。3章では日本語にも翻訳されているウィルフレッド・オウェンの戦争詩集の存在(日本語訳がなければ、詩の引用はとても訳せませんでした)やイラクのサダム・フセインが実際にどのような主義主張で対外政治を行っていたかということをかいつまんで学んだ。3章はメディア表象がテーマだったので、そもそも監訳者が私の担当にしてくれたのですが、5章はとても私の専門とはいえない内容。実際に、パレスチナや朝鮮半島の事例があり、それぞれを専門にしている地理学者にチェックしてもらって訳しました。5章ではまず国境がもたらすさまざまな問題を、仮想的なピュポテティカという国で説明します。ピュポテティカとは古代アレキサンドリアのフィロンと呼ばれる人物が作り上げた仮想国だそうで、とても2000年前に発想したものとは思えない、まさに現代国際社会の問題を見抜いている。といっても、原著にはフィロンの名もなく、ひょっとしたらヒュポテティカという名だけ借りているのかもしれませんが。

本書は地政学の入門書ではありますが、政治地理学全般の教科書でもあります。さらにいえば、政治的な問題を中心に据えながらも、アイデンティティや表象、ジェンダー、環境などの人文地理学のみならず人文・社会科学全般で通用するテーマを手広く扱っていて、ネットワーク論や主体構造論など、方法論的には最新とはいえないまでも、むしろ流行ですぐに廃れてしまうような理論ではない安定した説得力をもつ方法論でそれらの多様なテーマを貫いています。

まあ、ちょっと褒めすぎ感はありますが、読み物としてとてもいい本だといえます。しかも、今回読んでみて驚いたのは、訳者が7人であるにもかかわらず、全体的に訳文が統一されていること。時間はかかりましたが、監訳者がかなり手を加えたことと、訳者同士の打ち合わせなどほとんどなかったのに、同じようなレベルで訳文が出されたことが、訳文の統一感を生み出したのだと思います。出版後、あまり反響はありませんが、長く読まれる本になるといいなあと願います。

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