« 1ヶ月以上前に観た映画報告ですみません | トップページ | ナショナリズム入門 »

農地管理と村落社会

吉田国光 2015. 『農地管理と村落社会――社会ネットワーク分析からのアプローチ』世界思想社,202p.4800円.

1982年生まれの著者は私より一回り年下の地理学者。関西学院大学から筑波大学の大学院に進み、現在は金沢大学に勤務する。専門は私とはかなり離れているが、知人を通して個人的に知り合い、論文を読んでメールで感想を送り、などとやり取りをしたりしていた。そんなことで、謹呈していただいた本。

送られてきた本書は、私も何冊か持っている社会思想社から出版されたもので、ページ数は多くはないが、きれいな装丁で、また筑波大学の地理学らしい美しい図版が印象的だった。本書は既出論文を基本とする彼の博士論文である。彼の論文を読んだのは2本程度だったが、なかなか挑戦的で期待をこめて読み始めた。

まずは目次から。

1部 研究の課題と方法

章 序論

2部 大規模化に向けた農地移動と社会関係

章 北海道十勝平野における農地移動プロセスと農業経営の大規模化

章 北海道十勝平野における大規模畑作経営とネットワーク

章 大都市近郊における農地移動と水稲単作経営

2部小括

3部 農地利用の集団的管理と村落社会

章 淡路島三原平野における農地管理と小規模経営

章 淡路島三原平野における集約的農業とネットワーク

章 熊本県天草市宮地岳町における集団的農地管理と村落社会

3部小括

4部 結論

章 結論――成果と課題と展望と

本書の課題は明確である。恐らく、学部から大学院に入り、最終的に博士論文にまとめるにあたって、紆余曲折があったと思うが、本書を読む限りでは、課題があらかじめ設定されていて、調査方法も確立した上で調査対象地域を日本全国から選定し、主課題に準ずる副課題にあった調査地と方法の組み合わせで着々と調査・分析を重ねていったような印象を受ける。それくらい、本書はコンパクトでありながら理路整然としている。

私はきちんと紹介できる立場にはないが、日本の地理学には農業地理学と農村地理学とが分かれている。前者は経済地理学の一分野として、後者は社会地理学の一分野として、その間に十分な対話がみられないという大雑把な印象がある。本書には、その対話に各分野の研究の発展の活路を見出そうという意欲が見出される。実際、本書のタイトルがそういうことを匂わせており、両者を結ぶ接点が「農地」であるという。農地は農民の生活の場でありながら、生産手段でもある。かといって、完全に生産手段とは割り切れないところがあり、それは自然を相手にするという農業生産のあり方とも関係していると思う。そして、本書は特に農地の所有権が移動する(けっして農地が空間的に移動するわけではない)という点に着目する。日本における農業は、米国のように効率的・合理的な大規模化はさほど行なわれていないが、第2部での調査対象地ではある程度起こっている。しかし、北海道のような大地以外では大規模化を妨げる自然環境があり、日本では小規模経営の農家が多い。しかし、日本経済の動向としては、あるいは後継者に悩む農業における労働者問題のなかで、農地を放棄する農家が現れ、それを引き受けることで規模を拡大する農家もある。そして、その農地所有権の移動には、地縁や血縁のようなかつてからの人間関係から、農協のような団体など、さまざまな主体が介在する。

まあ、大雑把な説明としては本書はそんな内容であろうか。もちろん、序論で議論されているように、そうした農業経営に関わる研究は、地理学以外にもたくさんあるようだ。しかし、地理学者として著者がこだわるのが空間スケールだという。また、農地管理・農地移動ということに関して、著者が方法論的に依拠するのが社会ネットワーク論だという。それは序論で明確に議論されているが、やはり文献サーヴェイの不十分さが否めない。とはいえ、事例研究でそのあたりは補足されるものかと期待して読み進めた。

しかし、一向に空間スケールの話は出てこない。せいぜい、個々の農家-集落-市町村-複数の市町村レベルの非常にローカルな話だ。もちろん、日本全国の動向の話は出てくるが、ダイナミックなスケール横断的な議論はない。また、ネットワークについても、社会システム論との関係などまで首を突っ込むことはなく、ノードとパスという用語で社会関係をいいなおしているに過ぎない。

もちろん、本書は博士論文であり、著者が学生時代の到達点である。著者は就職してからも精力的に調査・研究を進め、学術雑誌に論文を掲載し続けている。だから、本書以降の展開は現在進行形で続けられるのだろう。でも、私には、じっくりと思考して大風呂敷を広げるような学的展望を妄想できるのは大学院時代で、そのエッセンスを少しずつ形にしていくということになるのが実際だと思う。なかなか歳を取ると、目の前のものに追われてしまうということがままある。まあ、著者がそうなるとは限らないが、ちょっとこじんまりとまとまってしまって、私の研究領域にも侵食してくるような大胆さを感じられなかったのは残念であった。

|

« 1ヶ月以上前に観た映画報告ですみません | トップページ | ナショナリズム入門 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/62755743

この記事へのトラックバック一覧です: 農地管理と村落社会:

« 1ヶ月以上前に観た映画報告ですみません | トップページ | ナショナリズム入門 »