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南と北

ブラント委員会報告,森 治樹監訳 1980. 『南と北――生存のための戦略』日本経済新聞社,374p.,2500円.

ウォーラーステイン『ポスト・アメリカ』に登場するブラント報告,改めて調べると日本語訳が出ているということで,読むことにした。ブラント報告とは,先進諸国と低開発国との経済格差を是正するための方策を探るために組織されたブラント委員会によって,1980年に出された報告書である。日本語も同じ年に出ているというのは驚きではあるが,その書物の性質から考えると当然か。監訳者は委員会のメンバーである。この組織は世界銀行の総裁による発案らしいが,基本的には各国家の威信と関わりを持たず,またいずれからも指示を受けない独立団体として設立されたもの。ブラントというのはヴィリー・ブラント(1913-1993)のことで,ドイツ連邦共和国(旧西ドイツ)元首相(1969-1974),社会民主党党首,1971年ノーベル平和賞受賞という経歴を持つ人物。

この委員会はそういう性質から,委員会メンバーとして,アジア4人(インド,マレーシア,インドネシア,日本),中東1人(クウェート),アフリカ4人(オートボルタ,タンザニア,ガイアナ,アルジェリア),北米3人(米国,カナダ),中南米(コロンビア,チリ),ヨーロッパ6人(英国,スウェーデン,フランス,オランダ,ユーゴスラビア)という構成となっている。ただし,ソ連と中国は含まれていない。その目的は「 国際社会における経済的社会的不平等から生じている重大な世界的諸問題を検討」するものであり,「 開発問題および絶対的貧困の克服に関する諸問題の適切な解決を促進する方策を提案」するという。1977年から10回に及ぶ会合を世界各地で開催し,それにあわせて世界各地を訪問し,各国首脳や国際組織との会合をもったりしている。

どんな項目が議論されているのか,目次をみてみよう。

序章 変革への訴え――平和,公正そしてわれわれの責務

第一章 北と南――問題の背景

第二章 開発の諸側面

第三章 相互利益

第四章 最貧困国

第五章 飢餓と食糧

第六章 人口――増加,移動そして環境

第七章 軍縮と開発

第八章 「南」にとっての課題

第九章 一次産品貿易と開発

第十章 エネルギー

第十一章 工業化と世界貿易

第十二章 多国籍企業・投資・技術

第十三章 世界通貨秩序

第十四章 開発金融――充足さるべきニーズ

第十五章 開発金融の新たなアプローチ

第十六章 国際機構と国際干渉――概観

第十七章 最優先行動分野

ウォーラーステインはこの報告書をかなり批判しているが,私個人としてはかなり広範囲にめくばりがなされていて,なかなかよくできた報告書だと思う。まず,この報告書では,開発を「機構や制度ではなく人に焦点を当てる。外国モデルを無批判に受け入れることを拒絶することは非植民地化の第2段階」だと考え,「開発とは経済的向上という観念のみならず人間の尊厳,安全,正義そして公平の増進という観念も有している」という。まあ,かなり理想主義的だとは思うが,本書はあくまでも提言なので,理想は持ってしかるべきだと思う。

本書では特に最貧困国の救済を第一に考えている。最貧困国の状況が改善されれば,先進諸国にとっても利益があるという考え方から,先進諸国は出し惜しみせずに第三世界に援助をしろという論調になっている。まあ,今日私たちが抱く途上国援助に関する考え方のベースが本書にあるといってよい。あるいは,そういう考え方が1980年前後に出来上がって,本書がそれを象徴しているというべきか。

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