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観光空間の生産と地理的想像力

神田孝治 2012. 『観光空間の生産と地理的想像力』ナカニシヤ出版,240p.,2600円.

先日,人文地理学会の学術大会に久し振りに出席した。今回は研究部会アワーというところでの発表を依頼されていたからだが,そのこともあって,翌日の一般発表の座長をお願いされていた。担当する発表の1つに本書の著者である神田君の報告があった。彼は現在の今回彼の報告の座長をするということで,大阪まで持参して新幹線で読んだ次第。

序章

第1章 近代期における南紀白浜温泉の形成過程と他所イメージ

第2章 戦前期における和歌山市の観光都市化と郷土へのまなざし

第3章 日本統治期台湾における国立公園の風景地選定と心象地理

第4章 熊野の観光地化の過程とイメージの変容

第5章 沖縄イメージの変容と観光空間の生産

第6章 与論島観光におけるイメージの変容と現地の反応

序章は本書を貫く理論的立場の表明であり,2001年の文章が元になっている。この文章が掲載された小冊子も当時いただいて読んでいるのだが,分量の関係か,序章は随分あっさりな印象を受けた。ルフェーヴル『空間の生産』の翻訳は2000年に出ているが,それをいち早く取り込みながら論を展開していた。序章ではその後の英語圏地理学の動向である「物質性,感情,生きられた経験」についても言及しているが,本書の内容にどう活かされているかは疑問。

各章の歴史研究としての完成度は高く,関連する資料にくまなくあたって論を組み立てている。目次でも分かるように,著者は当初からカルチュラル・スタディーズなどに関心を持っていて,表象分析や言説分析といえるような研究関心があった。そこにルフェーヴルの空間の図式,空間の表象,表象の空間,空間的実践が加わり,実際の観光地化の過程を表象の対立軸として設定するようになっているように思われる。しかし,彼の研究が特に近代期を中心とする歴史研究である以上,実際の観光地化の過程(観光地化と観光空間の生産とは理論上区別されているのか?)を知る手段も書かれた史料に依っている。私からいわせれば,表象概念とは現実概念との二元論で捉えられるべきものではなく,二元論を越えるべき概念だと思う。なので,著者の研究はあくまで表象分析であり,ここに「物質性」の議論などを加えるのはもう少しきちんとした論理が必要だと思う。

また,著者は「イメージ」という言葉を使い,そのことを私は何度か批判してきたが,どうやら彼の概念はロブ・シールズという地理学者にとっては有名な社会学者の著作に依拠して使っているようだ。なので,原著での用法をきちんと確かめる必要がありそうです。

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