« ナショナリズムの発展 | トップページ | 揺れる大欧州 »

ヨーロッパ覇権以前(上)

ジャネット・L・アブー=ルゴド著,佐藤次高・斯波義信・高山 博・三浦 徹訳 2001. 『ヨーロッパ覇権以前――もう一つの世界システム(上)』岩波書店,264p.,2800円.

本書はその内容がそうであるように,今の私の知的興味のさまざまな分岐の交差点で出会った本であり,その出会いに感謝して来年度大学の講義で教科書として使おうと予定している。

私は他の3人の研究者仲間と,ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』というベストセラーの批評論文を書いた。私の担当は英語圏地理学におけるこの本の扱いを調査したものだったが,そのなかで本書を知った。本書は西洋中心的な世界史の見方を乗り越えるような最近の1冊として挙げられていたもので,そのなかで翻訳されているものは他にアンドレ・グンダー・フランクの『リオリエント』があった。フランクの存在はそれこそ,ウォーラーステインを知った時に勉強した従属理論の代表的論者として知っていて,ウォーラーステインの最後の弟子といわれる山下範久氏が『リオリエント』を翻訳したことで知っていた。アブー=ルゴドのことはその時初めて知ったのだが,珍しい名前なので覚えていた。

最近,明治学院大学の講義のためにサイードの『パレスチナ問題』を再読した。その際に,アブー=ルゴドの名前に再会したのだ。どうやらサイードと仲がいいらしい。ということはやはりアラブ人の名前か。明治学院大学の講義では山川出版社の高校教科書『詳説 世界史B』にお世話になったのだが,この教科書は私が受けた高校の世界史の印象と随分違ってイスラームにそれなりに比重を置いたものだという印象を受けた。私も研究者のはしくれなので,教科書執筆者の名前を調べてみると,筆頭著者の佐藤次高氏はやはり「アラブ・イスラム史」が専門だという。そして,その後手にとった本書を見れば,彼が翻訳者の筆頭になっているではないか。

まずは上巻,目次から。

序論

 第一章 システム形成への問い

第一部 ヨーロッパ・サブシステム

  古き帝国からの出現

 第二章 シャンパーニュ大市の諸都市

 第三章 ブリュージュとヘント――フランドルの商工業都市

 第四章 ジェノヴァとヴェネツィアの海洋商人たち

第二部 中東心臓部

  東洋への三つのルート

 第五章 モンゴルと北方の道

 第六章 シンドバードの道――バグダードとペルシア湾

本書はウォーラーステインの世界システム論を根本から批判するわけではない。15世紀以降にヨーロッパを中心とした勢力が世界を覆っていくというウォーラーステインの議論に基本的に賛成しながらも,それ以前に決してヨーロッパが世界のなかで進んでいたわけでもなければ,ヨーロッパ文明なるものがヨーロッパで純粋バイオされたわけでもないということを,1250-1350年という時代のヨーロッパ,中東,アジアの歴史を辿ることで明らかにしようという内容。

そういう目的でありながら,ヨーロッパから先に記述していくってところがニクい。そして,市場という商業ネットワークの形成を描くことで,ヨーロッパがいかに中東とアジアと結ばれているのか,しかも資本主義が誕生する以前の商取引において,ヨーロッパはけっして中東やアジアに対して優位に立っていたわけではないという。

印刷の関係上,第二部の途中で上巻が終わってしまう。中東といいながらもモンゴルから記述するというのもありがたい。私も講義のためにマルコ・ポーロの『東方見聞録』とそれをめぐる2冊の歴史書を読んだことがあったが,それ以来,ヨーロッパと中国の関係を媒介するモンゴル帝国という存在が気になっていたのだ。

とりあえず今回はどうせ講義資料を作る際に再読する必要があるということで,あまり精読していない。そもそも精読できるほどの知識がないため,なかなか私にとっては難しい読書だった。この中途半端な理解のまま学生に伝えることのないように,9月までに関連する図書も読んで勉強したいところだ。

|

« ナショナリズムの発展 | トップページ | 揺れる大欧州 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/63122700

この記事へのトラックバック一覧です: ヨーロッパ覇権以前(上):

« ナショナリズムの発展 | トップページ | 揺れる大欧州 »