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メタ地図学

アスラニカシュヴィリ著,金窪敏知訳 1998. 『メタ地図学――基本的課題』暁印書館,181p.,4600円.

久し振りに吉祥寺に行った際,古書店のよみた屋で入手した。ここはよく行く古書店だが,久し振りに行ったらかなりレイアウトが変更されていて,地理学関係の本がかなり増えていた。迷った挙げ句購入した一冊。

景観研究の第一人者だった英国の地理学者コスグローヴが晩年に関心を徐々に地図に傾けていったように,私も最近地図についてもっとよく考えなくてはと思う次第。本書はロシアの研究者で,本書は1974年に出版されたものだが,こうして日本語で読めることをまず感謝しなくてはならない。

私にとってロシアの地理学は未知なる世界だが,なぜか地名に関する論文のいくつ家は翻訳されていて,これがなかなか面白い。ということで,本書を手にとった時もそんな期待を込めて購入した次第。また,下に示した目次は簡単なものだが,詳細目次では「地図学的抽象化」に関する議論に多くのページを割いていて,そこも興味を持った点。ともかく読んでみましょう。

1. 序論

2. 地図の言語

3. 地図学的方法

本書はソヴィエト連邦時代に書かれたものではありますが,「弁証法的唯物論」を基本的認識として掲げるところにまず驚く。もちろん,近年の欧米でもマルクス主義の影響は大きいが,論理的にマルクス思想を採用するという雰囲気ではなく,本書の書きぶりは基本的前提としてマルクス・レーニン主義があるという感じ。レーニンも時折引用されます。

一方で,本書では記号論にも多くを依拠しています。ロシアといえば文学研究のロトマンもいますから,記号論が取り上げられても不思議ではない。しかし,ロラン・バルトのような図式的な記号論ではなく,本書では記号論の創始者をチャールズ・S・パースとしています。

また,本書は弁証法的唯物論に固執しているからといって,ソ連の政治イデオロギーに捕らえられているわけではない。冒頭では当時の米国の計量地理学の業績に言及しています。また,本書の出版年はたまたまルフェーヴル『空間の生産』のフランス語原著出版年と同じですが,本書にも「空間の表象」という言葉がよく出てきて驚きます。まあ,地図が表象であるという捉え方は日本の地理学でも現代思想の影響がある以前から使われていたので,不思議ではないのですが。

本書のこだわりは3章のタイトルにもありますが,地図学的方法論と地図学的方法の区別,そして後者への強調にあります。つまり,地図学的方法論とは地図を描く方法に関する議論であり,それは以前からなされていたわけですが,後者はより広い意味で社会における地図の役割,あるいは地図を通して世界をどのように捉えるのか,そんなところに射程があるのだと思います。だからこそ,本書の表題がメタ地図学となっているのでしょう。そして,本書が地図学という一分野のみで完結する内容ではなく,地理学にも大きく関わるものであります。

ただ,本書はかなり抽象的な次元で議論が展開していて非常に分かりにくいです。個人的には抽象化の話のなかに縮尺に関する言及もあったりして,学ぶことはありました。ちなみに,訳者によれば,「メタ地図学」という発想は米国の地理学者バンジの『理論地理学』が1章を費やして論じているものであるといいます。この本は翻訳も出ていますので,早速購入しました。また,後日紹介したいと思います。

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