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マンダラ国家から国民国家へ

早瀬晋三 2012. 『マンダラ国家から国民国家へ――東南アジア史のなかの第一次世界大戦』人文書院,170p.,1600円.

本書は,京都大学の共同研究の成果として「レクチャー 第一次世界大戦を考える」というシリーズの一冊。第一次世界大戦といえば,どうしてもヨーロッパが中心になり,このシリーズでもヨーロッパ関連のものが多いが,日本のものが1冊と,そして東南アジアを中心にした本書がある。

第一次世界大戦と東南アジアの状況という歴史学的テーマはちょっとピンと来ないが,著者によれば,それは歴史学においてもそうらしく,あまり研究が進んでおらず,まとまった資料がないという。という意味においては,小冊子ながら本書の意義は大きいという。

第1章 マンダラ国家の近代植民地化

第2章 東南アジアと第一次世界大戦

第3章 戦後の民族運動と国民国家の形成

第4章 歴史教科書のなかの第一次世界対戦

おわりに

ちょっと読み終わってから時間が経ってしまい,詳細をうまく説明できないが,私にとってもとても有意義な読書だった。本書は日本の歴史家による執筆であり,当然日本との関係の上で第一次世界大戦という時代の東南アジアを考えている。

第一次世界大戦中の日本についてはこのシリーズの山室信一『複合戦争と総力戦の断層――日本にとっての第一次世界大戦』を読みたいところだが,日本は直接は第一次世界大戦に参加しないものの,日清戦争,日露戦争を経て,周辺諸国への軍事侵攻を進め,軍国主義として太平洋戦争へと突入していく頃である。軍事侵攻という意味では,東南アジアとも関係性を深めるが,そこに第一次世界大戦が大きく関わっているというのが本書のテーマ。

タイ(当時はシャム)は欧米諸国からの植民地化を逃れているが,かといって周囲が植民地化されるなかで,その勢力から無縁でいられたわけではない。自国が近代化を遂げ,また領土のいくらかを交換条件として差し出したりしている。ともかく,東南アジア諸国はオランダ,イギリス,フランスを中心に,かつてスペインの植民地だったフィリピンも米国の数少ない植民地になっていき,そこに日本が侵攻してくるという非常に複雑な状況があった。

第一次世界大戦はヨーロッパの戦争ではあるが,ヨーロッパ諸国の支配下にあった東南アジアにとっては,支配力が弱まることが想定される絶好の機会である。ということで,東南アジア各地で独立に向けた運動が活発化し,その際に日本の侵攻をもうまく利用しようとしたということだ。

まあ,以上は私の勝手な解釈であり,本書の記述はいずれも史実に基づいて進められ,そこから確実にいえる以上のことは書かないという慎重な態度で貫かれている。そういう意味では少し物足りなさも感じるが,著者の真摯な姿勢も感じることのできる本でした。

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