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森林の思考・砂漠の思考

鈴木秀夫 1978. 『森林の思考・砂漠の思考』日本放送出版協会,222p.,700円.

著者は地理学者。とはいえ,その後言語学者としても広く名を知られることになる。著者の本をきちんと読むのは今回が初めて。大学院生時代に環境地理学を専攻する同級生の書棚に,著者の『超越者と風土』と『風土の構造』があり,その存在は知っていたが,当時は環境決定論に対する拒否反応のようなものがあり,この著者もそのレッテルをつけていた。

しかし,著者の言語研究はきちんと読んでみたいと思うようになったし,彼の議論がどのように環境決定論なのかも見極める必要がある。今回は「日本文化論」の1冊として本書を読むことにした。NHKブックスの1冊。

第一章 日本文化の森林的性格

第二章 変化する森林と砂漠

第三章 東西の差を生ぜしめたもの

第四章 日本における「砂漠化」の進行

第五章 日本の森林とその意味

第六章 砂漠的思考技術としての分布図

巻頭の「はしがき」によれば,本書は学術書として書かれた『超越者と風土』を一般向けに書き直したものだとのこと。そして,その一部はNHK教育テレビの「みんなの科学」という番組で放映された内容でもあるという。

著者の前著でどちらも「風土」という言葉が使われているように,そこには和辻哲郎の『風土』の影響がある。『風土』は副題に「人間学的考察」とあるように,自然科学の書ではない。あくまでも人間の性質について論じる名目で,世界を「モンスーン」「沙漠」「牧場」と分類し,モンスーンを日本を含むアジアとして,牧場をヨーロッパとして論じている。本書もそれに近い形で,洋の東西に分け,東洋を森林に,西洋を砂漠に分類する。そして,前著の「超越者」が「神」なのであろう。本書では超越者の概念は登場しないが,第三章では,宗教の違いと神の違いについて論じられている。

なぜ,和辻が牧場としたヨーロッパを砂漠としているかというと,そもそもヨーロッパを支配することになるユダヤ教およびキリスト教の発祥の地が砂漠にあるからだという。砂漠で産まれた宗教だからこそ,二者択一(生きるか死ぬか)の厳しい選択が人間に要求され,多神教ではなく一神教に辿り着くのだという。

第四章のタイトルにあるように,本書中盤では,日本で「砂漠化」が進行していると主張する。しかし,これは自然地理的な意味ではない。要するに,明治維新以降顕著に進んだヨーロッパ化。ヨーロッパ文明は砂漠で産まれたキリスト教に基づくものであり,著しく砂漠的な特徴を持つもので,それが日本に浸透するさまを「砂漠化」と呼んでいるのだ。

本書を読むと,内村鑑三『地人論』やジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』などを思い出す。これらは十把一絡げにいえば「環境決定論」といえるが,要は,自然と人間に関するさまざまな知識を持つ者が,「同じ場所にあること」を理由にその関連性を検討し始めると,それがかなり自由度を持って説得的な物語を作ることを可能にするということなのかもしれない。ともかく本書はある程度説得力を持ちながらも,冷静に考えると「そんなバカな」と思える内容が多く,どこからが科学的根拠に基づくのか,判断できなくなる。

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