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人間を幸福にしない日本というシステム

カレル・ヴァン・ウォルフレン著,鈴木主税訳 2000. 『人間を幸福にしない日本というシステム【新訳決定版】』新潮社,380p.,771円.

本書には明確な書誌情報が記されていないが,ともかく日本では1994年に出版されたもので,私が読んだのは2000年の新訳。1994年版では篠原 勝氏による翻訳で,ウォルフレンの著書の翻訳を多く手がけている人物。今回の訳者である鈴木主税氏は私も名前を知っているくらい,多くの翻訳を手がけている翻訳家。そして,私は初めて買う「新潮OH!文庫」の1冊。

本書のことは1994年の訳書出版当時に知っていたが,基本的に日本論の類は読まない。今回大学講義のレポートの課題図書に指定して,私も読むことにした。

第一部 よい人生を妨げるもの

 第一章 偽りの現実と閉ざされた社会

 第二章 巨大な生産マシーン

 第三章 無力化した社会の犠牲者たち

 第四章 民主主義に隠された官僚独裁主義

第二部 日本の悲劇的な使命

 第一章 日本の奇妙な現実

 第二章 バブルの真犯人

 第三章 日本の不確実性の時代

第三部 日本はみずからを救えるか?

 第一章 個人のもつ力

 第二章 思想との戦い

 第三章 制度との戦い

 第四章 恐怖の報酬

 第五章 成熟の報酬

暴かれた日本の「素顔」(志摩和生)

本書を含め,著者による日本論は数多く出版され,その多くが日本語訳もされている。1989年に出版された『日本/権力構造の謎』が大きな反響を呼んだという。その本と本書の違いはよく分からないが,恐らく同じような論調で同じようなキーワードを使っているのだろう。確かに,そういわれてみると,本書のキーワードである「説明責任」という言葉は,昨今の選挙戦でもよく使われる言葉のように思う。本書を読んでいても,どこかで聞いたことのあるような話のようにも思う。

本書は日本の政治経済の実態を論じたものだが,やはり基本的な日本論の特徴を兼ね備えていると思う。確かに論じられていることは説得的なものかもしれないが,学術的な意味ではそうではない。事実を述べていると思われる一つ一つの記述が何の根拠に基づいているのか全く不明なのだ。その事実がどこに書いてあって,あるいはどのような調査や取材から得られたものかも判然としない。

前著のタイトルにもなっているように,本書の内容な日本の社会の構造がいかに政治権力・経済権力によって歪められているかを明らかにすることにある。その端的な表現は「官僚制度」である。しかし,ここで官僚というものを私が理解しているかというとそうではない。いわゆる分かったつもりになっている言葉の典型的なものかもしれない。私の理解では官僚とは政治家である。ただ,いわゆる政治家は名前を前面に出して選挙戦を行うことによって選出されるが,官僚は名もなき政治家という印象がある。いわゆる役人のお偉方であり,名のある政治家たちの公約を具体的な政策とし,行政の仕事として翻訳し,実行する人たち。総理大臣が代わっても基本的な政府の政策に大きな違いがないのは,実際にはそうした人たちが政策や行政を担っているからと考える際に重要な役割を果たす人たちのこと。

しかし,本書ではそういう人たちを「政治官僚」と呼び,それ以外の存在の重要性を指摘する。それは「経済官僚」とも呼べるようなものなのだろうか。財閥など大企業が政治家たちに圧力をかけ,自分たちの経済活動に都合のよい社会構造にしたてるというように理解できる。しかし,本書ではけっしてそういう人たちが影で政治を操っているというような言い方はしていない。そういう人たちですら,自分たちは自分たちの金儲けのためではなく,国のために尽くしているのだということを主張しているのだという。しかし,それがいったいどういうことなのか,はっきりとは書いていない。

ともかく,本書は一般論である。抽象論ではない。著者はどのような形で得たものか分からないが,日本に関する知識の寄せ集めの中から著者の頭のなかに構築されたシステムがあり,それを著書としてまとめているのだ。まさに,確たるものとしては実在しない「日本人」や「日本文化」というものを都合のよい素材によって実在物にしたてあげる日本人論,日本文化論と共通するものだと思う。もっといえば,血液型で人間の性格を判断するようなこととも共通する側面を有するともいってもいいと思う。

ただ,本書は学術書ではないので,こういう言語活動は表現の自由の観点からも十分ありえると思うし,読者に対する意識改革という意味ではむしろ歓迎すべき著書である。しかし,著者の真意が必ずしもきちんと伝わるわけではなく,間接的な情報を通じ,また別の日本のステレオタイプを生み出すことにもなるという意味では,やはり本書のようなものに対抗する言説も必要となろう。

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コメント

お誕生日おめでとうございます。
バースデーケーキは食べられましたか。

投稿: 岡山のTOM | 2016年7月27日 (水) 02時28分

TOMさん

ありがとうございます。
もう,バースデーメッセージを送ってくれるのは,他にniftyだけです(笑)。
訳あって,ケーキは食べませんでした。

投稿: ナルセ | 2016年7月29日 (金) 05時16分

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