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Phenomenology, science and geography

Pickles, J. 1985. Phenomenology, science and geography: spatiality and the human sciences. Cambridge: Cambridge University Press, 202p.

英語圏地理学には1960年代後半から「人文主義地理学humanistic geography」という動向があった。それは現象学に依拠し,コンピュータ・サイエンスのもと地理学において無機質化してしまった人間の扱いに人間性を取り戻すという大きな意義があった。しかし,人間の感覚や感情などを強調しすぎる嫌いがあった。現象学的地理学などとも呼んでいたが,厳密な意味でフッサールの現象学を丁寧に検討するわけではなく,ハイデガーやメルロ=ポンティ,サルトルなどの現象学派の著作から都合の良い箇所を使っていた,あるいは私の印象ではそこから派生する,バシュラールやボルノウ,ノルベルグ=シュルツといった著作の影響の方が強かったように思う。

まあ,そんなことをしっかりと検討して,フッサールの現象学をしっかりと地理学に活かそうとするのが本書の意図。同じようなことは今里悟之さんが2007年の英語論文で行っていますが,そこでも本書がかなり活用されています。ちなみに,著者のことはかなり前から知っていた。バーンズとダンカンが編集した1992年の『世界を書く』という論文集は私の研究者としてのスタートに大きな影響を与えていますが,そのなかにピクルスも「テクスト,解釈学,プロパガンダ地図」というタイトルで寄稿しています。また,その後『Ground truth』というタイトルの本を編集していて,GIS批判を繰り広げています。その当時の関心は地図にあったようですね。もちろん,現在でも刺激的な研究を発表している人ですが,その基礎に本書による現象学を基礎とした科学批判があるのかもしれません。

1 はじめに

 1 科学と人間

 2 科学と現象学

 3 この研究の計画

 4 「地理学的現象学」

 5 この学問の背景

第Ⅰ部 地理学と伝統的形而上学

2 地理学的言説とその中心的主題

 6 科学の基礎的概念と存在論に適した方法

 7 客観主義と主観主義

 8 実証主義と自然主義

 9 カントの存在論と物質的自然

 10 物理的空間の概念と地理学

 11 物理的空間,認知行動主義と主観主義への転回

 11 地理的対象の特徴のあり方

第Ⅱ部 地理学と現象学

3 地理学における現象学の解釈

 13 地理学の現象学的基礎

 14 地理学的現象学

 15 地理学的現象学へのアプローチ

 16 科学の視野

 17 生活世界への転回,地と対象の曖昧さ

 18 現象学的方法

4 地理学的現象学:その基礎の批判

 19 地理学的現象学の形而上学

 20 ヒューマニズムと「客観」と「主観」の混同

 21 地理学的現象学:その内的批判

 22 シュッツの構成的現象学への転回とフッサールへの回帰の正当化

第Ⅲ部 現象学と人文科学の問題

5 フッサール現象学:基礎的な企図

 23 現象学とは何か?

 24 現象学の必要

6 現象学,科学,現象学的地理学

 25 記述的現象学と科学

 26 現象学,科学,生活世界

7 科学の基礎的存在論に向けて

 27 現象学と科学の基礎的存在論

 28 地理学における科学と客観化

 29 科学の発展と「進歩」の概念

 30 人文科学と客観化

 31 科学における厳密さと正確さ

 32 理論と自然と世界へのその到達と残余

 33 科学と生活世界

第Ⅳ部 人文科学,世界性,空間性

8 人文科学の含意と地理学の人文科学

 34 現象学

 35 現象学と地理科学

 36 公式に企図された人文科学に向けて

 37 フッサールと人文科学

 38 公式でアプリオリな「精神と人間性の普遍学」に向けて

 39 実存的分析と人文科学

 40 実存的分析と「世界の自然概念」(あるいは生活世界)

9 人間の空間性の理解に向けて

 41 地理学,世界,空間

 42 世界と世界性

 43 空間

 44 世界内存在の日常的様相

 45 用具的の空間性:場所と地域

 46 空間と科学

 47 人間の空間性

 48 空間と人間の空間性

 49 場所と空間:地理学的人文科学に向けた地域的存在論の含意

さすがに,1時間の通勤時間でも2週間ほどかかりました。しかし,読み終わってみると,ちょっと期待ほどではなかったという印象。なので,本書の内容を詳しく説明する代わりに詳細目次をつけました。

前半の,英語圏の現象学に依拠した地理学の検討はとても徹底していて学ぶことが多かった。しかし,本書を読んでもフッサール現象学がいったいなんだったのかははっきりとは分からない。まあ,確かに本文のなかにもフッサール現象学を単純に理解することはできない,のようなことが書いてある。それこそが地理学がこれまで利用してきた単純化された現象学ってのが誤りだったということです。

本書ではフッサール自身が現象学とはなにかという問いに対して「私とハイデガーだ」と答えたということに依拠し,ハイデガーの言葉は多く引用されている。科学に対する現象学的態度を論じる場所や,後半の空間性に関する議論ではフッサールよりもむしろハイデガーの方が多く登場する。この辺りが本書の物足りなさであろうか。

ハイデガーが云々ではなく,現象学の枠組みを活用していかに場所や空間について考察できるか,ということが知りたかったわけですが,これだけの本でもその答えに導くことができないというのはやはり難しいということでしょうか。

まあ,この問題については晩年の中村 豊氏なども考えていたようです。彼は年老いてこのテーマに取り組んだわけではなく,若くしてなくなってしまったわけですが,いろいろ新しいテーマに煩わされなくなる晩年のテーマとしてはちょうどよいかもしれません。

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