« 夏も終わりか | トップページ | ことばともの »

思考の誕生

ピアジェ, J.著,滝沢武久訳 1980. 『思考の誕生――論理操作の発達』朝日出版社,240p.,880円.

地理教育の分野で子どもの地理的認識の発達という研究分野があるが,そこでピアジェを参照する研究者はけっこう多い。それはピアジェが子どもの発達心理についての研究のみならず,「景観問題」といわれる空間認知に関する研究があるからだという。まあ,そんなことでたまたま古書店で見つけ,安価だった本書を購入した。朝日出版社のエピステーメー叢書もけっこう集めているし。

本書はフランス語で出版された著書の翻訳ではなく,著者の講演録を訳者が集めて一冊にまとめたもの。内容は下記の通り。

思考の科学

関係の認識論

知覚と知能における運動の役割

数学の構造と知能の操作の構造

子どもの数の発生

知能の誕生

冒頭の講演から,自伝的な内容で始まる。子どもの頃から生物学に関心を示し,神童ともいえるように,成人になる前から学術雑誌などに論文を執筆していたという。その後,心理学的な領域に関わるようになるが,本人の関心は一環して「認識論」にあるという。また,数学に関しても一定の素養があるようで,4章のタイトルにもありますが,本書でもけっこう数学の話が出てきます。なお,この4章に「構造」という語が出てきます。私が唯一持っているピアジェの本は,クセジュ文庫『構造主義』ですので,そういえばピアジェは構造主義者でした。

本書から学ぶところは予想以上にありました。でも,一方では発達心理学的な意味での理解はあまり進まなかった気もします。まず,ピアジェについて知らなかったことが多かったのは当たり前ですが,本文を読むよりもむしろ訳者あとがきのなかで,訳者はピアジェをデカルト・ニュートン的な近代的空間観のオルタナティブとして位置づけています。相対性理論のアインシュタインとの交流もあったり,数学のなかでも位相数学的空間(トポロジー)の主張など,子どもの空間認識によって近代的空間観を乗り越えようとしたということらしい。

本文のなかでは,まず2章の「関係の認識論」。最近私が認識論にちょっとこだわっているというのは書いていますが,ピアジェの研究関心の中心に認識論があるということ,そして具体的な彼の認識論の一つとして「関係」という論点で議論されています。本書でよく登場するのが,子どもは同じ重さの粘土をこねて形が変わると,体積や重さが変わると認識するという話。丸い状態から細長くすると,ある子どもは長さが長くなったから重くなるといい,ある子どもは細くなったから軽くなるという。集合論や外延と内包の議論などもあります。

もう一つは5章の「子どもの数の発生」。これは私自身が自分の子どもと接しているときの経験と照らし合わせて「なるほど」と思った次第。子どもは早くに数を数えられるようになるが,それがすなわち数を理解したことにはならないという。数というのは抽象的な概念で,頭のなかだけで計算できるようになると数の理解に達したといえるらしい。つまり,目の前にある事物の数を数えるとか,指を折って足し算をするとかいう行為はけっして数を理解しているとはいえず,物と視角に依存した行為ということになるらしい。ともかく,数というものの本質について考えさせられる。

まあ,ともかく難解であると同時に刺激的な読書でした。

|

« 夏も終わりか | トップページ | ことばともの »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/64263740

この記事へのトラックバック一覧です: 思考の誕生:

« 夏も終わりか | トップページ | ことばともの »