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境界政治地理学

岩田孝三 1953. 『境界政治地理学――わが国,国界藩界に就いての政治地理学研究』帝国書院,239p.,350円.

都道府県名の地名研究を進めているつもりがだんだん深みにはまっている気がする。まあ,これまで日本の地理学をきちんと学んでこなかった私にとってはいい機会だとは思うが,どの時点で踏ん切りをつけて論文として出すかの判断が難しくなってきた。

本書は先日読んだ林 正巳『府県合併とその背景』で境界紛争に関する議論においてかなり大きく依拠していたのが本書。著者には本書の前に『国境政治地理』という本が1938年に出ているどうだが,とりあえず購入できたのは戦後出版の本書。

1. 政治地理学に於ける境界の意義

2. わが国の国界並びに藩界の展望

3. 藩界を中心とする諸種の紛争問題

4. 特殊の地形に依拠する藩界の問題

5. 特殊の地形によらない藩界の問題

6. 国内地方行政区界に関する政治地理的問題

巻頭には日本における境界標となってきた,明神,関址,峠,道祖神,神社などの写真が2ページに12枚掲載されていて,続いて地方ごとに藩界図が掲載されている。東北地方から九州地方まで7枚。これがまさに私が欲しかった地図だが,藩の領域がこのように地図に描けるほど明確に定められていたのかという疑問を抱きながら,旧国や藩の境界は全域に渡って明確に定められていたわけではないことを示す根拠を探しながらの読書になった。

岩田孝三氏の文章は,地政学がらみで少しは読んだことがあったが,本書は今日にもきちんと伝えるべき研究成果だと思う。米国やドイツの政治地理学の議論を踏まえ,日本の歴史地理学的領域に踏み込んで,日本全国に目配りしながら,境界標という非常にローカルな状況を論じながら,また今日ではあまり問題とされない,国内の境界紛争について論じる。

やはり出版年からして,掲載されている地図が地形図そのままで,主題図にはなりえていないという欠点はあるものの,境界標に関する現地調査,歴史資料の検討,文献調査といった多角的なアプローチとなっている。最近翻訳の出たコーリン・フリント『現代地政学』で境界に関する章の翻訳を私が担当した。そこでボーダーとフロンティアの違いなど改めて認識したり,川や分水嶺といった自然物による境界の恣意性などについても改めて考えさせられたのだが,本書では既にそうしたことについて論じられている。

最後に,冒頭に書いた,江戸時代の国堺や藩境が明確に定められていなかったということについての根拠はきちんと確認することはできなかった。とはいえ,「江戸時代の藩界については,現在の行政区画のように地域的広がりを明確に辿ることは殆ど不可能で,飛地,入会地がきわめて多く,そのためにむしろはっきり何藩何村の境界はどの範囲であると線をもって画する事の方が間違いを起こすことになるのである。然しそもそもの「国」「クニ」の語源は「分界」すなわち「クマリ」から出たものであるという説も強いので,われわれの祖先が境界に無関心だったとは決していえない。」(p.17)という記述に出会うことができた。

まあ,あるものについて論じるのは容易だが,ないものを証明することは難しいということだ。

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