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ことばともの

ロジャー・ブラウン著,石黒昭博訳 1978. 『ことばともの――言語論序説』研究社出版,349p.,2800円.

先日,トゥアンの『個人空間の誕生』を読んでいた時に参考文献になっていたのが本書。『言葉と物』といえばフーコーの名著だが,同じタイトルの本が原著で1958年に米国で出ていたとは。この頃の米国(カナダも含む)から出ている本はある意味で魅力的なものが多く,本書も掘り出し物ではないかと思い購入。私がこれまで読んだのは。

ケネス・バーク『文学形式の哲学』(原著1966年)

ハヤカワ『思考と行動における言語』(原著初版1939年,第三版1972年)

ブーアスティン『幻影の時代』(原著1962年)

マクルーハン『人間拡張の原理(みすず書房は「メディア論」)』(原著1964年)

きちんと調べて挙げてみると,フーコーの『言葉と物』も原著は1966年だからあまりかわらないか。ともかく,上記の作品たちは,著者も研究者なのか批評家なのかあまり区別がないし,学問分野を限定してない広い関心で,素朴な視点から書かれているところが初学者にも読みやすく,それでいてけっこう突っ込んだところまで書かれているという印象。ともかく本書の目次。

序論

第一章 ことばの分析

第二章 文学の歴史と読み方についての争点

第三章 指示と意味

第四章 音声象徴と隠喩

第五章 言語指示の比較心理学

第六章 初めてのことばの遊び

第七章 言語相対論と決定論

第八章 進歩と病理

第九章 説得,表現,宣伝

第一〇章 心理学における言語的指示

第一一章 結論

本書は翻訳で2段組み,350ページ近くあり,かなり読み応えのある本でした。著者の専門は心理学。言語心理学なる分野を確立すべく,言語という対象に取り組みます。上記の目次では分かりにくいですが,第一章は音声学,音素論とことばの「音」についての議論が続きます。第二章もフレーゲを思い出すようなタイトルですが,前半の中心はことばの「音」についてなんですよね。音声学はソシュールの『一般言語学講義』やクリステヴァも音素の分析をしているように,言語学の基礎的なところなんだけど,かなり読むのは苦痛。でも,我慢して読んだ甲斐があって得るものはあった。

本書は人間以外の動物や子どもを対象とした言語研究を取り上げ,紹介している。言語とは人間のみが持つ能力という前提ではなく,どこから言語が始まるのか,という素朴な疑問に答えようとしている。そのためにも「音」の検討が必要だったのだ。言葉は音を聞いて学ばないといけない。音を言葉として認識するのがはじまりだ。本書では,狼に育てられた少年の話や,人間の言葉がわかる馬の話など,現代の研究者はあまり関心を寄せない大衆的な話題についても大真面目に取り組むことで,その素朴な問いに答えようとする。

それはともかく,本書では心理学者あるいは言語学者がいう「カテゴリー」という概念を理解することができた。一般的にカテゴリーというと,多数ある物事を分類するという上からの発想だが,本書では「範疇」と訳される。意味合い的にはさほど変わらないのだが,下からの発想だと理解できる。子どもがある動物の絵を見せられて「これは犬」と教えられる。他の絵本だと多少絵柄が異なるけど,それも「犬」。道ばたで出会った飼い犬についても「犬」。こうして犬をみる経験を積み重ねて,新しく出会った犬の絵や実物を見て,子どもはそれを「犬」だと理解する。これが範疇である。それは抽象のどのレベルでも通用する。つまり,ことばを通じたものの認識とは,違いで物事を区分する上からの思考と,類似で物事を束ねていく下からの思考で成り立っているといえます。

しかし,本書は第九章に入って,急に広告の話や人種差別,戦時中のプロパガンダなどの話に転じてしまう。確かに,時代的には戦後や商業主義の台頭などでそうしたものが社会で要請されるのだと理解されるが,ここまで細かい話を丁寧にしてきたのに,随分おおざっぱな話題を最後に持ってきてしまったという印象。

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