« 都道府県名と国名の起源 | トップページ | 今年に入って観た映画 »

テキヤ稼業のフォークロア

厚 香苗 2012. 『テキヤ稼業のフォークロア』青弓社,165p.,3000円.

私がよく参加する研究会の報告者として招かれたのが本書の著者。その研究会は日本地理学会の研究グループだが,最近は分野内での報告者が不足しているのか,他分野から報告者を呼んで,分野間ネットワークを広くするということに研究会の場が利用される雰囲気もある。

著者は民俗学の研究者である。私は民俗学にはなぜかあまり興味をそそられず(人類学も同様だが),これまできちんと読んでこなかった。地理学研究者の中には,非常に民俗学に近いところで仕事をしている人も多いのだが。

しかし,人の話を聞くのであれば,簡単だということで,報告を聞きに行った。当日は水上生活者の話だったが,それまでは継続して東京下町のテキヤの研究をしていたということで,本書ともう一冊新書を執筆している。ということで,読んでみました。

序章 露店のなかへ

第1章 テキヤの社会――集団構造とその維持原理

第2章 一人前の商人になる――名乗り名の継承方法と機能

第3章 縄張りを使う――商圏の運用と地域社会

第4章 健忘録テイタを読む――記録される祝祭空間

終章 民間伝承の力

200ページに満たない本ではありますが,内容は非常に濃密です。本書の内容は学位論文とのことだが,学位論文らしい難解さがあまり解消されないまま単行本になった印象は否めない。テキヤというのはいわゆるお祭りの時や,境内に出店する露天商を営む人たちのことだが,本書は「テキヤ=ヤクザ」のような単純なステレオタイプを否定し,アカデミックの場でもきちんと理解されていない人々についてより正確に理解しようという試みだから,分かりやすい説明はできないのかもしれない。あるいは,本書はあくまでも民俗学特有の文体で書かれているだけで,それに馴染みのない私のような読者にとって読みにくいのかも知れませんが。

著者は東京下町で育ち,日常的にテキヤに接して暮らしていたという。本書の中に書かれている著者の経歴もなかなか複雑で,その部分はある研究者の個人誌としても楽しめる。テキヤという人たちは社会の中でそれなりに観察される人たちである。そうした人たちの社会の仕組みを本書で理解できるわけだが,ある意味時代錯誤というか,にわかに現代でもそういう生活をしている人がいるというのが信じられなかったりする。でも,社会というのは私たちが理解する以上に複雑で,私たちの身近な空間でさえも,理解の及ばない信念,知識,思考,行動などを有する集団たちがいるということを改めて考えさせてくれる本である。

|

« 都道府県名と国名の起源 | トップページ | 今年に入って観た映画 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/64916346

この記事へのトラックバック一覧です: テキヤ稼業のフォークロア:

« 都道府県名と国名の起源 | トップページ | 今年に入って観た映画 »