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キャラクター文化入門

暮沢剛巳 2010. 『キャラクター文化入門』NTT出版,226p.,1800円.

このblogでもお知らせしましたが、今年に入ってとある研究会で一度報告する機会があった。その報告内容は自主的に決めたものではなく、研究者の知人との飲み会のなかでなぜか一方的に決められたもの。私がアニメを題材に話をすることになったのだ。もちろん、このblogで書いているように、個人的な趣味として映画は好きだし、アニメ作品を避けるような人間ではない。しかし、アニメ作品を積極的に観るわけではない。ただ、その飲み会の席で上映前の『君の名は。』の話で盛り上がり、新海 誠作品はこれまで比較的観ていたので、その研究会は『言の葉の庭』の上映会+私の話少しということになった。

上映を主とするにしても、その後の議論として何も題材がないのではしょうがないので、新海作品のクラウドスケープを論じた加藤幹郎『表象と批評』はすでに抑えてあったが、他にいくつか事前に読もうと思って、思いついたのが本書。

著者の暮沢さんは現代美術の批評家として名高い。私もたまたま彼を知っていくつか著書も読んだことがある。『アートピック・サイト』という2010年の著作は芸術(アート)を場所(トポス)と関連づけたもの。『「風景」という虚構』という2005年の著作はタイトル通り風景論、ということで非常に地理学に親和性のある批評家ということで、一方的に親近感を持っている。

そういえば、彼がキャラクターに関する本を書いていたなと思い出し、Amazonで調べると、「なか見!検索⤵︎」があったので、確認するとやはり「セカイ系」についても論じられていた、ということで迷わず購入。私自身は「セカイ系」なることばんも知らなかったのだが、上述した飲み会の席で、私にアニメ論を進めた人物が新海作品を「セカイ系」と表現していて、気になっていた言葉。

第一章 キャラクターとは何か

第二章 キミとセカイの戦いでは、世界を支援せよ――セカイ系とキャラクター

第三章 インターフェイスとしてにのキャラクター――オタク文化とヤンキー文化

第四章 現在のキャラクターたち

おわりに

本書は当然現代美術批評ではない。そして単なるアニメ論ではない。著者はどうやらこの領域にかなり精通しているようで、取り上げられるのはアニメだけでなく、マンガ、ライトノベル、ゲームまでが中心であり、第二章で論じられる。この個人的趣味を、単なる評論ではなく、ある意味学術的な論証に耐えうる議論にまで高めようとする評論とするべく、第一章がある。そこでは、大塚英志や東 浩紀などの議論を丁寧に辿っている。そこで一つ納得したのは、「キャラ」と「キャラクター」とを分ける伊藤剛の議論。その著書『テヅカ・イズ・デッド』という書名は知っていたけど、そのなかの議論らしい。「キャラ」というのはいつから巷に流通している言葉か分からないが、確かに「キャラクター」という本来の意味が形骸化して、それだけで独立した語として成立しているという感覚はあった。例えば、ディズニーのミッキーマウスなどは本来はアニメの中できちんとした人格を持ったネズミだ。日本でもかつては輸入アニメとして放映され、それを通して人々はミッキーの魅力に惹かれていたのだと思う。しかし、私たち以降の世代はアニメをきちんと観ることもなく、ディズニーランドや各種商品に登場する図像だけのミッキーを愛している(私は愛していませんが)。その日本製といえばサンリオのキャラクターだ。こちらもおそらくかつてはアニメのようなストーリーがあったのだろうが、ともかく表情がないその図像は多様な人格を表現するのに適しているとは言い難い。

第二章がセカイ系の解説に当てられる。まあ、この言葉を聞いた時に『新世紀エヴァンゲリオン』に端を発するものだという想像はできていたが、世間ではその通りらしい。私の場合、『エヴァ』は新劇場版を1作観ただけだから、何が新しいのかよく理解できていないが、新海誠の『雲のむこう、約束の場所』と実写版映画の『最終兵器彼女』は観ていたので、なんとなくは理解できた。私のような人間は『エヴァ』を『機動戦士ガンダム』のパクリだと思ってしまうのだが、ガンダムがなぜ幼い少年少女たちが世界戦争に巻き込まれるのかというところを丁寧に描いて状況設定をしているのに対し、その辺の物語的な周到さを省略してしまった上で作品が成立するというのが、ある意味でまさにリオタール的なポストモダンと言えるのかもしれない。

第三章は独自の路線を走っていく。正当なアニメ研究の流れのキャラクター論では取り上げられないような展開。アニメといえばオタク文化だが、オタク文化の対極にも位置付けられそうな、ヤンキー文化を取り上げ、キャラクターという共通項で2つの文化の共通性を見出す。その具体例が痛車とパチンコ。第四章は最近話題の聖地巡礼や男の娘などを取り上げ、現在の状況を確認している。相変わらず、暮沢さんの本は発想が豊かで、読者のことを考えつつ、その予想を超えていくような展開で刺激的です。

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