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多文化であることとは

宮島 崇 2014. 『多文化であることとは――新しい市民社会の条件』岩波書店,279p.,2300円.

某大学の非常勤で、エスニシティをテーマにした社会学の講義をしているが、今年度のまとめの話をどうしようかということで、選んだ本が本書。社会学の講義ということで、ブルデューの話はあまりしていないが、デュルケームの話はしているし、書店で見かけた時にシティズンシップの話など、重要な論点を話していないし、ヨーロッパの事例についても話はしていないので、本書は丁度良いと思った。

岩波現代全書の1冊ということで、著者もはしがきで「本書は研究書ではないので、自分の認識や訴えたいことを少し自由に書かせてもらった」とある。しかし、長年研究書を書いてきた著者だから自由な記述はほんの「少し」に過ぎなかった印象。私自身はあまり宮島社会学を読んでこなかったが、本書は彼のこれまでの研究のエッセンスが詰まっているようにも感じた。

序章 多文化であることとは

第1章 多文化あるいは差異の社会学

第2章 多文化シティズンシップへ――国籍を相対化する

第3章 マイノリティと差異の承認

第4章 多文化アプローチの行方とヨーロッパの移民マイノリティ

第5章 ジェンダーと文化

第6章 マイグレーションと子ども――「子どもの権利」の視点から

第7章 日本社会の国際化、多文化化

第8章 「多文化」の現在――共生が進むか、ナショナリズムへの反転か

エスニシティに関する議論というものは近年理論的な議論が進展していて、○○人や△△民族というカテゴリーを所与のものとはできない状況にある。しかし、いざ具体的な事例となると結局は○○人や△△民族という語が当たり前のように出てきてしまい、その複雑な状況をできるだけわかりやすく説明することに終始しがちのように感じる。

本書でも事例は多く登場するが、その歴史的な経緯を詳しく説明することより、将来的にどうすれば解決できるのかという糸口を探そうというスタンスなので、認識論的な立場がしっかりしている。そして、自身の研究としてはヨーロッパを基礎としながらもその経験を活かして、日本での状況を将来を見据えて理解し、解決していこうという著者の姿勢は素晴らしいと思う。

シティズンシップとは、私が最近読んだテッサ・モーリス=スズキのいくつかの著書にも登場したが、いわゆる市民権civil rightsとは違うようだ。ヨーロッパでいうところの市民権は、日本でいう国籍と近い概念だと思うが、シティズンシップとは生活者の権利である。もちろんそれは政治的権利であるが、狭い意味での政治ではなく、広い意味での政治。国政でいうと、よく納税の義務と参政の権利というが、多くの国で外国人は納税の義務は課せられるが、参政権は与えられていない。それは国家というのが国民のものである限り、国の行く末を決める議決権を外国人にも与えるということ自体が国民国家という理念に合わないからだと思う。

しかし、国政ではなく、地方政治ということを考えると、労働移民であっても、かれらは労働者であるだけでなく、生活者でもある。国の行く末に意見する必要性は感じなくても、地方行政に外国人の意見が反映されるべきといいう考えは、国民国家の理念と相容れないものではないと思う。まあ、この辺のことは私の理解の範囲で書いていることだが、近年シティズンシップが注目されるというのはそういうことらしい。

ともかく、学ぶことの多い読書でした。宮島社会学もきちんと学ばなくてはと思った次第。しかし、デュルケームからブルデューまで、フランス社会学に半生を捧げ、フィールドとしてもヨーロッパと向き合ってきた著者ですから、その枠組みから抜け出ることが難しいのは確か。本書でも、ヨーロッパ至上主義的な立場は取らないといいながらも、ここかしこに先進的なヨーロッパの思想や実践から日本が学ぶことは多いといった類の記述がみられる。もちろん、著者は漠然としたヨーロッパ思想の信仰者ではなく、具体的なヨーロッパ人研究者の学説を検討してきたわけだから、話は単純ではなく、自身が最も精通している観点から物事をみるというのは決して間違ったことではない。ただ、読者がそうした著者の立場を少しでも理解した上で、本書の主張も単純化せずに捉えることが必要なのかもしれない。

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