« 文化の概念 | トップページ | 旅のエクリチュール »

ミクロコスモス

平井 浩編 2010. 『ミクロコスモス 初期近代精神史研究 第1集』月曜社,365p.3,000円.

 

本書は雑誌のような体裁をとっているが,その後継続的に出版されているわけではなく,日本では珍しい論文集という扱いにして,読書日記で取り上げることにした。私の専門的研究は現代だが,そのための基礎的な知識の蓄積という側面と,個人的な趣味という側面から,主に西洋史になるが歴史書の読書をしている。非常勤先の講義ではそんな知識を活用したりもしているが,かなり以前から本書の編者が主宰するbibliotheca hermeticaというウェブサイトの存在は知っていた。

一度連絡を取ろうと思ったこともあるが,プロフィールを見ると日本からヨーロッパにわたってそのままヨーロッパで研究活動をしているということを知り,恐れ多くて趣味レベルで話はできないなと断念した次第。その後,2002年の雑誌『思想』に平井 浩「ルネサンスの種子の理論――中世哲学と近代科学をつなぐミッシング・リンク」という論文が掲載された。その時に掲載された略歴には「1967年生。リール第三大学PhD。ロンドン大学ウェルカム医学史研究所。ルネサンス自然哲学。」とある。

その論文を興味深く読み,ヨーロッパ史も新しい段階に入ったな,と素人ながら感じた。歴史書を読むといっても私の場合はもっぱら日本語で,翻訳されたものも多かった。また,雑誌論文というよりは書籍化されたもの,しかも印刷数の少ない高価なものではなく,一般の書店にも出回る比較的安価なものだった。当然,翻訳されるのはビッグネームの歴史家の作品であり,取り上げられる歴史的人物も日本である程度名の通ったものが多かった。マニアックなところといっても,フランセス・イエイツくらいだが,もちろん彼女もその作品の多くが翻訳されているという意味では,日本ではポピュラーな歴史家だ。

しかし,それ以降平井 浩さんの名前はあまり見かけなくなる。本書が出たのが『思想』論文から8年後だったので,また驚いたのだ。そして,本書を皮切りに,平井 浩氏によって勁草書房から,bibliotheca hermetica叢書の刊行も続いています。なかなかその動向に追い付いていませんが,ワクワクします。

さて,本書ですが,日本人による10編の論文が寄稿され,2本の翻訳が掲載されています。

 

論文と研究ノート
I.
生命と物質
記号の詩学――パラケルススの「微」の理論:菊地原洋平
ルネサンスにおける世界精気と第五精髄の概念――ジョゼフ・デュシェーヌの物質理論:平井 浩
II.
空間の表象とコスモス
画家コペルニクスと「宇宙のシンメトリア」の概念――ルネサンスの芸術理論と宇宙論のはざまで:平岡隆二
百科全書的空間としてのルネサンス庭園:桑木野幸司
III.
ルドルフ二世とその宮廷
アーヘン作《トルコ戦争の寓意》シリーズに見られるルドルフ二世の政治理念――《ハンガリーの解放》考察を通して:坂口さやか
ハプスブルク宮廷におけるディーとクーンラートのキリスト教カバラ思想:小川浩史
IV.
知の再構成と新哲学
伝統的コスモスの持続と多様性――イエスズ会における自然哲学と数学観:東 慎一郎
ニコラウス・ステノ,その生涯の素描――新哲学,バロック宮廷,宗教的危機:山田俊弘
翻訳
初期近代の哲学的世界観,神秘学,神智学における光シンボル:クルト・ゴルトアマー(平井 浩訳)
光について:マルシリオ・フィチーノ(平井 浩訳)
動向紹介
ルネサンスの建築史――ピタゴラス主義とコスモスの表象:桑木野幸司
ノストラダムス学術研究の動向:田窪勇人
ルネサンスの新しい身体観とアナトミア――西欧初期近代解剖学の研究動向:澤井 直

本書にも寄稿している山田俊弘さんは,17世紀ドイツの地理学者ヴァレニウスに関する論文もあり,私も引用したことがあります。bibliotheca hermetica叢書の最新刊は山田さんの著書で『ジオコスモスの変容――デカルトからライプニッツまでの地球論』だということで,必読ですな。

他にも物質とか,空間の表象とか,地理学的な興味を引くキーワードも多い。まあ,そんなことよりもやはり個々の論文の質が高く,また装丁も美しく(月曜社ってところがにくいですね),手元に置いておいて損はない一冊。

読書としては面白いが,自分もこの仲間に入って研究するとなるとハードルが高く感じてしまう。当然英語だけではない,ラテン語などを含む複数の言語,ましてや時代が時代ですから,そういうものの習得が必要。また,日本で手に入る資料ではとてもここまでのレベルにはならなそう。という意味でお金がかかりそうです。しかs,一方で興味深いのが,本書に掲載されている寄稿者リストには正規の大学教員がほとんどいないということです。大学院生は多いのですが,非常勤講師も幾人かいます。そういう意味でも,編者である平井 浩さんの力量がいかんなく発揮されている論文集というべきでしょうか。

|

« 文化の概念 | トップページ | 旅のエクリチュール »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/65312543

この記事へのトラックバック一覧です: ミクロコスモス:

« 文化の概念 | トップページ | 旅のエクリチュール »