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全航海の報告

コロンブス著,林屋永吉訳 2011. 『全航海の報告』岩波書店,322p.840円.

 

コロンブスの航海日誌は第一次航海のものしか残されておらず,しかもそれはラス・カサス神父が自著のなかで再現したものが現在まで伝わっている。日本語では,それは単独に『コロンブス航海誌』として岩波文庫に収められている。それを使って長らく講義をしていたが,ある年次の学生のレポートで,第二次から第四次航海についても資料があるというレポートがあったことをずっと気にしていた。

たまたま,外出先で持参した本を読了してしまい,帰りに読む本を書店で探していたところ見つけたのが本書。コロンブスの航海日誌自体は第二次から第四次のものは見つかっていないが,いくつかの記録は残されているとのこと。本書の内容は岩波書店の大航海時代叢書に1965年に収録されていたということだが,新しく岩波文庫版としても出版された。

解説
第一次航海の報告
 第一次航海について
 計理官ルイス・デ・サンタンヘルへの書簡
第二次航海の報告
 第二次航海について
 チャンカ博士がセビリャ市へ送った書簡
 ドン・クリストーバル・コロン提督がカトリック両王への伝言としてイザベル市において1494130日,アントニオ・デ・トーレスに与えた,インディアスへの第二次航海中の出来事に関する覚書
第三次航海の報告
 第三次航海について
 ドン・クリストーバル・コロン提督が大陸を発見した際の,その第三回目のインディアスへの航海の経緯について,彼がエスパニョーラ島より国王に送った書簡
 1500年末に,提督がカスティリャ王国のドン・フワン王子の保育女官へインディアスより送った書簡
第四次航海の報告
 第四次航海について
 インディアスの副王兼提督ドン・クリストーバル・コロンが,まことに真摯なるキリスト教徒であり,かつまことに偉大なる我らが主君たるエスパニャの国王並びに女王陛下に,その航海中に起こったことどもや,航海中に発見された土地,諸地方,町,川及びその他驚嘆すべきことども,並びにこの地方には多数の金鉱をはじめ著しい富と価値ある事物のあることを書き認めた書簡
 ドン・クリストーバル・コロンの最後の航海中に起こった出来事について,ディエゴ・メンデスが認めた記録

 

目次がやたらと長いが,正式な航海の報告書というよりは書簡である。コロンブス本人によるものは航海の状況を報告し,補充物資を送ってほしいとか,待遇を改善してほしいなどの要望が多い。また,第二次航海はチャンカ博士という人物が,第四次航海についてはディエゴ。メンデスなる人物による記録である。

書簡とはいえ,本書は,『コロンブス航海誌』よりもコロンブスの現地での苦労や苦悩が伝わってくる。第一次航海の日誌である『コロンブス航海誌』はある意味淡々と書かれた記録であり,あまりコロンブス本人が何を感じたのかという主観が伝わってこない。それはラス・カサスが編集したともいわれるように,「私」という一人称ではなく「提督が」という三人称で書かれていることにもよる。

コロンブスは第一次航海の成功により,富と名声を手に入れたが,その後それが維持されるわけではなかった。いつの時代にもあるように,成功には妬みがあり,またさらなる期待があり,その期待に応えなければすぐに信用は落ちてしまうもの。コロンブスもそうだったようである。しかも,彼の場合弟たちを第二次航海以降同行させ,現地の支配も行わせたり,最後の航海では息子を連れて行ったり,スペインでも自分の息子を王宮に住まわせたりと家族も巻き込んでいた。自分の立場が危うくなるとその影響は家族にまで及ぶのだ。

実際第二次以降の航海では死に迫った状況もあったようである。第一次航海をめぐってはトドロフの『他者の記号論』やヒュームの『征服の修辞学』,グリーンブラットの『驚異と占有』などの解釈があるが,本書を読むと,少し違った見方もできるかなあと思ったりもする。最近は植民地支配の内実についてももう少し勉強する必要性を感じています。

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