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地名学入門

鏡味明克 1984. 『地名学入門』大修館書店,279p.1800円.

 

鏡味完二『日本の地名』それを改訂した鏡味完二・鏡味明克『地名の語源』に続いて,明克氏の単著である本書を読んだ。内容の印象はだいぶ違うが,こうして目次を書くと似通っていて,記憶の中で内容を混同してしまう。
著者の父親である完二氏は地理学者だが,息子の明克氏は言語学者。立場を違えて同じ「地名」を研究している。父親の影響がどの程度かはわからないが,地名研究における地理学の限界を感じて,息子を言語学の道に歩ませたのだとしたらすごいことだ。そして,本書を読むとそれは成功していて,親子で日本の地名研究の一時代を築いたともいえる。

まえがき
第一章 地名とは何か
第二章 地名の調べ方
第三章 地名研究の歴史
第四章 地名の分布図の見方
第五章 地名の文字
第六章 世界の地名研究
第七章 現代の地名研究
付章

本書の第三章でも整理されているように,地名は今も昔も政治的な命名であり,『万葉集』や『古事記』,『和名抄』などの公的な文書でも地名が扱われているし,もちろん近代以降にもそれは変わらない。一方で,学術分野においては柳田国男の民俗学,地理学,金田一京介の言語学などの他分野で扱われてきた。
本書では,これまで私が紹介してきたような本と共通する内容もあるが,言語学の観点から特徴的なのが第五章である。単に地名の文字ということに関しては山口恵一郎の地形図における誤植のような議論もあったが,本書は鏡味完二氏が「分布論」という独特な方法で地名にアプローチしたのに対し,言語学の古語研究という立場からアプローチする。これこそが,地理学者である私が気づきもしない点であった。
まず,「国字」。日本語は漢字が多くを構成しているが,狭義の漢字は中国から輸入されたもので,そうではなく日本で作られた広義の漢字を「国字」という。「凪」や「峠」は日本で作られた字だとのこと。また,第四章の分布論は,単なる完二氏の研究の紹介ではなく,言語学的観点からの解釈が加わっているし,第二章の「語源研究の方法」にもある。すなわち,日本語と一口に言っても,歴史的な変遷があり,また同時に機内を中心とする社会階級の上層部が使う言葉と,地方の民衆が使う方言とは同じ時代でも異なっている。そういう観点から,特定の地名表現の時空間的な特定を行うというのはなかなか興味深い。しかし,そういう言語学的な素養がなければ自身でそういう判断ができるわけではない。
第五章後半は当用漢字や常用漢字と地名との関係,それを行政上・教育上どうしていくべきかという提言になっていて,私の関心からは外れてくる。まあ,それも地名と政治権力というテーマとしては関連するともいえるが。第六章は「世界の地名研究」と題しているが,中心は国際的な地名研究の組織(国際名称科学会議)に著者が日本人として出席してきた経緯の記録である。第七章「現代の地名研究」も新しい研究方法の提言かと思いきや,これまでの地名研究がもっぱら語源のような過去の地名を扱うのに対して,「現代の地名」の研究ということだった。もっぱら今日の地名変更の批判といってよい。
言語学というと私にとってはやはりソシュールの印象が強く,言語地理学からより哲学に近い分野に接近しているのが現代の言語学かと思っていましたが,歴史言語学と名付けえるような具体的な知識を蓄積していく分野があることを本書から学んだ。まあ,考えれば当たり前ではあるが,まだまだ他分野のすそ野は広いことを再認識した。

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