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地名を考える

山口恵一郎 1977. 『地名を考える』日本放送出版協会,226p.600円.

 

地名研究では地理学側から名前の出てくる山口恵一郎。著名な地理学者に山口弥一郎がいたりして,混同していました。山口恵一郎は『地理』に「地名のエコロジー」などの文章を書いていて,アカデミックな地理学者だと思っていましたが,本書で著者の経歴を読んだら,国土地理院から日本地図センターなどでさまざまな役職を務めている人で,どちらかというと地図の専門家ということのようです。

序 地名への誘い
Ⅰ 地名のフィロソフィー
Ⅱ 地名分布と地名群落
Ⅲ 地名の諸問題

しかし,鏡味完二のようなアカデミックな地理学の場で地名研究を行っている人とは一線を画したい,でも地名研究における地理学の重要性は主張したいというところが本書から見え隠れしています。

地名研究はそもそもどちらかというと郷土史的な仕事が多く,理論を体系化しようという試みはあまりない,というか煩雑すぎて類型化とかで精いっぱいという気がしますが,本書は素朴なところから,まさに書名どおり地名とは何かを考えているところが新鮮です。とかく,本書は地図との関係で地名を考えていて,地図という印刷物に掲載するが故に,常用漢字と地名の関係は興味深い。特に面白かったのは地図を編集する上での誤植などが引き継がれ,場合によっては誤植が正式な地名になってしまうこともあるとのこと。

もちろん,地図は縮尺によって掲載する地名が選択されます。この件については,最近の地図学の成果も含め,私自身も今後論じていきたいテーマですが,素朴な問いは本書の中にもあります。

本書が一番強調しているのが,地名を個別に考えるのではなく,まとまりをもって考えること。この件についてはすでに鏡味完二による地名の分布というのがその先駆ではありますが,山口恵一郎はそことは一線を画したいこともあり,「地名群落」と表現します。日本地図で分布を考える鏡味氏とはスケールが異なるといえます。もちろん「群落」というのは彼が地名を生態学との隠喩で捉えようとしているところからきます。スケールに関しても,生態学特有の地理学的(geographical)スケール,地誌学的(chorological)スケール,地勢学的(topological)スケールという三つのスケールです(訳語は私のものですが)。これは一般的な地勢図・地形図のスケールに対応しています。

確かに,山口氏の発想は面白く,またそれなりに徹底して生態学の概念で説明しようという試みは非常に興味深いと思います。本書には生態学の生みの親ヘッケルの名前も出てきますし,ある程度徹底しているとは思うのですが,そもそもヘッケルはドイツにおけるダーウィン学説の紹介者であり,進化論者です。そういう意味でいうと,地名についても自然選択のような考えかたから捉えることはできるのか否かという議論もあってよかったと思う。

でも,ともかく地名に関する私の関心にはそれなりに近く,一気に読み終えることができた。山口氏の地名本はもう一冊買っているので,そちらも楽しみにしたい。

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