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アメリゴ・ヴェスプッチ(中公新書)

色麻力夫 1993. 『アメリゴ・ヴェスプッチ――謎の航海者の軌跡』中央公論社,228p.740円.

 

私は講義でヨーロッパにおける旅行記およびユートピア小説の歴史なんてテーマで教えている。このテーマでの講義は久しぶりだが,コロンブスの話をする際に,いつもアメリゴ・ヴェスプッチの名前だけ紹介する。その次の授業がトマス・モアの『ユートピア』についてなのだが,こちらにもアメリゴの名前が出てくるので,一度きちんと学ばなくてはと思い,探した次第。実は,アメリゴ・ヴェスプッチに関する日本語の書物は,現在入手できるものは2冊しかない。アメリゴの文書が,岩波書店の「大航海時代叢書」のⅠ巻に収録されていることは知っていたが,手に取ったことはない。

ともかく,中公新書の1冊なら手軽だしいいと思って読んでみた。目次は簡単なので詳細目次まで示したいところだが,まあいいか。

1章 航海者アメリゴ・ヴェスプッチ
2章 近代の予兆
3章 ヴェスプッチ家の人々
4章 アメリゴの航海
インテルメッゾ

あまりにも知らない事実が多かったので,読んでおいてよかったとは思うが,多少疑問の残る読書だった。著者は東大出身の外交官を務めた人物で,オルテガに関する著書もあるとのこと。まあ,新書なのでこれで十分だとは思うのだが,歴史の解釈など鋭い記述もあって,戸惑う。ともかく,巻末に文献がいくつか示されているものの,どういう史料に基づいて話が組み立てられているのかよく分からない。以前,廃藩置県関係の新書を読んだ時にも思ったが,その場に居合わせたような書き方というのはやはり学術的な歴史書ではなく,歴史小説だと思ってしまう。また,第2章と第3章はアメリゴの出身地フィレンツェの当時の状況を説明しているのだが,確かに彼がメディチ家と関係があったことは分かったが,冗長な記述が多く,私自身がこういう家系の話が苦手なこともあり,読み進むのが大変だった。

ともかく,アメリゴが4回の航海を行い,しかしコロンブスのように提督や船長という立場ではなかったということ。アメリゴは公式な報告書を残しておらず,私的な書簡が6つほど残されていて,そのうち2つに関しては同時代的に出版されたが,その他については後の時代になって写本のみが発見されたということ。私的な書簡ということもあり,地名などが明確に示されておらず(航海の情報は機密情報だった)旅程が復元しにくいということ。復元された旅程では,彼は北米には一度行っただけで,彼が乗った航海の主な業績は,南米大陸のかなり南まで達していたということ。そして,その事実から彼がこの大陸はアジアの一部ではなく,「新世界」であると判断したこと。などは基礎的事実として本書から学べた。また,中南米の植民地化はスペインが中心で,現在ポルトガル語が話されているのはブラジルだけだが,なぜ,スペインとポルトガルとの植民地境界線がブラジルにあるのか,という件についても本書に記述があった。これは非常にわかりやすく,納得できるものであった。

アメリゴ・ヴェスプッチに関する2冊目の本は,清水書店の「CenturyBooks人と思想」シリーズの一冊で,刊行年も2016年と新しいので,来年度までに読んでおきたい。

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