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2017年8月

地名の歴史学

服部英雄 2000. 『地名の歴史学』角川書店,244p.2600円.

ここまで何冊か地名研究本を読んできたが,とりあえず本書で最後にしたい。地理学は鏡味完二と山口恵一郎のものを,千葉徳爾は地理学者だが,柳田国男の地名研究を受けた民俗学的な地目研究と位置付けたい。また,鏡味明克は鏡味完二の息子だが,本職は言語学で,単著はまさに言語学的な地名研究である。論集『日本地名学を学ぶ人のために』(2004)は最新の地名研究書であり,さまざまな研究者が寄稿しているが,本書は歴史学の立場から書かれたものである。千田 稔『地名の巨人 吉田東伍』と同じ角川叢書の1冊である。

序 章 地名の解釈法
第一章 地名の史料学
第二章 地名を歩く
第三章 歴史地図の読解
第四章 地名による歴史叙述
終 章 地名の調査と保存

帯に「歩き,み,ふれる歴史学」とあるように,本書の著者は歴史学者でも郷土史研究者に近いのだろうか,フィールドをとても重視している。本書に関しても以下のようにある。「本書では地名を二つの視点から考えたい。第一には歴史学的アプローチ。…もう一つは地誌的なアプローチである。」(p.3)そして,「地名の多様性・歴史性・地域性を語ってみたい」(p.32)という。

第二章のタイトルにあるように,気になる地名のある土地に出向き,老人に話を聞く。そう,著者は単にその地域にのみ残る史料を探し出すということだけではなく,今もその土地に住む老人から記憶を引き出すという仕事をしているのだ。ある意味では民俗学の仕事に近い。そして,一方では「景観復元」のような言葉もよく使い,歴史地理学に近いところもある。

本書の難点としては文献が巻末などに文献表としてまとめられておらず,本文中で言及されていること。さらに,その言及に関しても著者名と書名のみの提示となっている(雑誌論文の場合はもう少し詳しい)。さすがに,これまで読んだ地名研究本とは異なった視点だったが,私の関心に対して得るところはあまり多くなかった。

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観光映画2本

2017年7月26日(水)

この日は私の47歳の誕生日。しかし,水曜日であり,早稲田大学は授業があった。例年は誕生日の週には夏休みに入っていたが,半期15回の授業がかなり徹底されるようになり,14回だった東京経済大学も,1回少ない分の補講が要求された。もちろん,給料はそのために増えるわけではない。しかし,この日の授業は午後だけなので,新宿で午前中に映画を観ることにした。しかも,水曜日は武蔵野館系列やテアトル系列はサービスデーで1000円,あるいは1100円。

新宿シネマカリテ 『逆光の頃

最近,高校生の学園ラヴ・コメディは非常に多いが,地方の高校生を中心に据える映画は『うん、何?』以来か。2008年公開の『うん、何?』といえば,主演の橋爪遼氏が逮捕されるというニュースがあったが,あの映画では非常に素朴な演技で好印象だったがゆえに非常に残念。
こちら,『逆光の頃』は京都が舞台。若いキラキラした少年少女(高校生は青年?)が,非常に美しく撮影された今日との風景の中を移動する,まあそれだけの,いわば観光映画。相手役の葵わかなを松本 潤との噂の葵つかさと間違いて,ちょっとよこしまな期待を抱いて観始めたが,葵わかなが登場するなり,この体でAV女優はないだろうと勘違いに気づく。わかなさんはNHKの朝ドラ次期主演に決まっている女優さんとのこと。

 

8月4日(金)

この日は日本地理学会の研究グループの研究会があり,会社を休んで午後から八重洲に行く。せっかくなので,午前中に有楽町付近で映画でもということで,時間を調べると,1本だけ間に合う作品がありました。久しぶりに日比谷シャンテですが,ここもTOHOシネマズになっていますので,たまっていた6ポイントで無料鑑賞。

日比谷シャンテ 『ボンジュール,アン

ダイアン・レイン主演作品ですが,それより驚いたのは,エレノア・コッポラという名前の監督が,フランシス・コッポラの奥さんだということでした。『地獄の黙示録』に関するドキュメンタリー映画を共同で監督したことはあったようですが,単独のフィクションとしては初監督とのこと。主人公は映画プロデューサーの妻で,カンヌ映画祭でカンヌに来た後,撮影現場に移動する夫には同行せず,夫の仕事仲間のフランス人の運転でパリまで行くというストーリー。行く先々で美味しいものを食べ,美しい風景を見るというこちらもフランスの観光映画。 

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新・地名の研究

千葉徳爾 1983. 『新・地名の研究』古今書店,266p.2200円.

文化地理学を標榜しておきながら,千葉徳爾を初めて読むというのはお恥ずかしい話。ちなみに,書名の「新」はやはり柳田国男『地名の研究』を意識したもので,千葉自身による2冊目の地名書というわけではない。本書も著者が19411982年まで書き溜めていた地名に関する文章を集めて編集されたもの。私は日本の地名研究が1970年代後半に盛り上がりを見せ,1980年代前半には一通りの成果が出そろって,それ以降の発展があまり見られないと考えているが,本書もそこに位置づけられそうだ。本書は出版社からのすすめにより作られたものだという。既出論文から成るが,かなり手は加えられたものらしい。

はしがき
第一章 地名とは何か―その研究法
第二章 海の地名と山の地名
第三章 社会的地名としての単位集落呼称
第四章 自然的地名と社会的地名―石見中部高原の地名と土地制度
第五章 カイトについて―三河地方の歴史的小地名
第六章 水田地名と生活
第七章 山岳地の小地名
第八章 壱岐島における触集落
第九章 二,三の地名研究の試み
第一〇章 古代地名の統計的考察

千葉徳爾は地理学者であり,民俗学者でもある。特に地図の専門家である山口恵一郎にとって,地名とはまず地形図に掲載される公的な地名であるが,千葉にとっては地図にも載らない,その土地の住民の通称を現地調査によって聞き取ることを地理学的な(そして民俗学的でもある)地名研究としている。よって,本書が対象とするのは,私の対象外である「小地名」であるのだが,それが故に学ぶことも多い。

まず,著者は自らが関わる対象を小地名に限定し,「土地の状態との関係がはっきりしない広域の地名についても,まったく論じていない」(p.4)としている。さらに,地名の種類を「地点名称,地域名称,広域名称と,その階層秩序に応じて,それぞれに,地名をつけて土地を区分している」(p.17)と分けている。広域地名に関しては,「標準化して付近地名を総括代表するような地域名に上昇していくような性格」(p.94)としており,柳田国男の地名観と類似している。武蔵野という広域地名に関しても,「武蔵の国に存在する広大な原野を指すに止まって,どこからどこまでといったはっきりした境域が定まっていたわけではない」(p.208)としている。広域地名の研究に関しては,「小地名の中から政治権力が行政的な公称地名を選定して,特定範囲の総称として利用させる傾向をもち,広域地名の発生的な考察を試みる場合には,より小範囲の原地名の位置とその原意味を明らかにする必要」(p.219)を認識している。

この政治権力の行為を歴史的資料からきちんと特定するのは難しいかもしれないが,地理学的課題として今日であれば十分に成立すると思う。

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地名の研究

柳田国男 1968. 『地名の研究』角川書店,316p.240円.

ついに読みました。柳田国男の『地名研究』。ちなみに,本書はもともと古今書院から昭和111936)年に出版されています(私の母親の生まれた年か)。しかも,断片的に本書に収められたのは日本地理学会の学会誌『地理学評論』に掲載されていたものもあるということは知っていた。古今書院は今でもある出版社だが,地理学が中心でたまに人類学の本も出したりするが,柳田国男の本を出しているというのが多少不思議だった。その謎も読んだら解けました。初版あとがきを書いている山口貞夫は地理学者だが,彼が柳田国男の地名に関する文章を集めて編集し,出版したということらしい。『地理学評論』に掲載された文章も,日本地理学会が招待した講演での内容を収録したものだという。

柳田国男は郷土研究会なるものを主宰していて新渡戸稲造なども参加していた。確か,ここには幾人かの地理学者も参加していたと思う。そんなことから,柳田は民俗学の立場からも地名に関心を持っていたし,地理学者とのかかわりも生まれたのだと思う。

自序
地名の話
地名と地理
地名と歴史
地名考説
大唐田または唐千田という地名
アテヌキという地名
和州地名談
水海道古称
初版あとがき(山口貞夫)
解説(大藤時彦)

本書は「地名考説」が中心で,ここに55の文章が含まれている。それこそ郷土研究会が出していた雑誌『郷土研究』に掲載された文章をはじめ,『民族』や『土俗と伝統』,『考古学雑誌』,そして『歴史地理』などに掲載された文章から成っている。個々の文章は個々の地名に関する各論であり,「地名の話」から「地名と歴史」までが総論と位置付けることもできるが,じゃあ,そこで少し抽象的な議論がなされているかというとそうではなく,やはり民俗学ってのはそういうものなのかなと思わざるを得ない,雑駁な文章である。まあ,元が講演なのだから当たり前か。

そして,いまでも民俗学的な地名研究がそうであるように,小地名が彼の関心の中心である。とはいえ,それが故に広域地名に関しても一定の考えを持っていて,地名の本質は小地名で,非常にローカルな状況からその名前が付けられるが,その後必要になる広域地名は小地名から採用されていくというものである。

この角川文庫版は,古今書院版の出版以降に発表された地名に関する文章も収録されており,それが「大唐田または唐千田という地名」以降の4つの文章である。特に個人的には「和州地名談」には柳田の地名観が色濃く反映しているようにも思う。一読できちんと理解できたわけではないので,再読したいと思う。

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ニッポン 旅の絵本

田中 薫 1978. 『ニッポン 旅の絵本』伝統と現代社,197p.1500円.

人名間違いで随分以前から手元にあった本。同じ出版社の同じシリーズで,中川浩一『旅の文化誌』という名著があったため,間違えて購入したもの。田中 薫とは地理学者でもいて,『地学写真』という著作がある。私は写真の研究もしていたから,「地理写真」を提唱していた石井 實氏の文章も読んでいたが,そのなかに田中 薫氏の名前があり,覚えていたのだ。

本書の著者は出版当時,毎日新聞社出版局に勤務しながらイラスト・ルポを書いているという人物。せっかくなので,最近旅行記をいくつか読んでいたが,その現代日本版として読むことにした。この人はイラストも描くということで,絵になる風景を求めているということで,目次にあるように一定のテーマがあり,ピンポイントで旅行をしている。

Ⅰ 西洋館のある町
 1 函館〔北海道〕
 2 神戸〔兵庫県〕
 3 長崎〔長崎県〕

Ⅱ 街道を行く
 1 七ヶ宿街道〔宮城県〕
 2 木曽路〔長野県〕
 3 吉備路〔岡山県〕

Ⅲ 蔵と民家と
 1 喜多方〔福島県〕
 2 川越〔埼玉県〕
 3 高山〔岐阜県〕
 4 今井町〔奈良県〕

Ⅳ 城跡のある町
 1 上田〔長野県〕
 2 小浜〔福井県〕
 3 津和野〔島根県〕
 4 萩〔山口県〕

著者は新聞社勤務ということで,休日が土日なのかはわからないが,本書によると大抵の旅は23日程度の一人旅だという。しかも,遠距離は仕方がなく空路を用いるが,目的地が決められているとはいえ,その道中も楽しみたい人らしく,鉄道やバスでの旅を好んでいる。そして,お目当ては比較的狭い範囲期ということで,最寄り駅につくとレンタルサイクルを借りていることが多い。確かに,私が高校生の時に行った修学旅行でも,奈良でレンタルサイクルを借りている。最近も都心でビジネス用に活躍しているレンタル(シェア?)サイクルを見かけるが,マイカー所有(免許取得)率の低い時代には観光の主たる手段だったのかもしれない。なお,著者は徒歩も得意なようで,時間に余裕があるときは結構な距離を歩いている。

私は旅好きではないが,スタイルとしてはこの著者の旅に非常に共感できるので,しかも味気ない写真ではなくイラストなので,モノクロ印刷の書籍でも十分に楽しめる旅行記だった。ちなみに,巻頭には口絵としてかなりの枚数のカラーイラストも掲載されている。

著者が訪れる場所は,目次からもわかるようにいわゆる古き良き時代の日本を感じ取れる場所が多い。でも,著者の語り口はそれほど強くはない。自分自身がいっとき通り過ぎるだけの旅人であることに対する謙虚さがある。しかし,文章の書き方は現代に入り,かなり一般的な旅行記のスタイルを踏襲しているといえる。このスタイルがどのように獲得されるのか,なかなか実証は難しいテーマだとは思うが興味を惹かれる。

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地名の論理

山口恵一郎 1984. 『地名の論理』そしえて,236p.1800円.

山口恵一郎の地名本2冊目。正直言って,ここまで何冊か読んできた地名の本だが,目次構成がどれも似たりしていて,どの本に何が書いてあったかが混同しつつある。本書も冒頭に「地名とは何か」とあり,「またか」という感じだったが,とりあえず読み進む。

Ⅰ 地名とは何か
 1 地名と現代生活
 2 地名をどう理解するか
Ⅱ 地図と自然地名
 1 自然地域の名称
 2 火山の図式
 3 日本列島――その陸と海
Ⅲ 地名の類型と地名相
 1 古代産業と地名
 2 発生からみた地名の四つの類型
 3 地名集団の生態学
 4 国郡の変転と地方・県名譚
Ⅳ 現代地名論
 1 “ウェット”か“ドライ”か――地名統一論
 2 水部地名余論
 3 地名の特異な文字の物語
 4 地名のかな書きと漢字書き
 5 文化のレベルダウン論――外国地名の書き方の問題
 6 日本式かヘボン式か――地名のローマ字表記論
 7 Tokyo-wanかTokyo
Wanか――ローマ字注記則の問題
主要自然地域名称図

そういうこともあり,目次をきちんと読めば分かるのだが,本書のⅡが「自然地名」を扱っているように,巻末の「主要自然地名称図」を掲載するのが本書にとってけっこう重要なようだ。前の読書日記にも書いたように,著者は生粋の地理学者というよりも,国土地理院や地図センターで務めた地図業界でのお偉い方です。そういう意味では,彼がいう地理学が自然地理学なのか,人文地理学なのかは判然としないが,やはりどちらも扱う地図を中心としているために,そちらも分け隔てなく関心や知識があるのかもしれません。現代においてアカデミックなレベルで自然と人文を双方扱うというのは地理学史研究でない限り非常に難しいが,著者についてはアカデミックというより一般向けと考えた方がよさそうです。しかし,それだからこそ,この手の本には貴重な主張や知識,考え方が残されているかもしれません。

実際,そういう意味では第Ⅰ部はよく聞いた話だし,第Ⅱ部は私の関心外,第Ⅳ部は地名保存という観点における現代の問題の列挙,という感じであり,残った第Ⅲ章に私にとっての得るところがあった。第Ⅲ部は地名研究の中心である歴史考証ということになるが,「4 国郡の変転と地方・県名譚」は下記のような展開で,地方自治の歴史が概観される。
畿とその設定
道の成立(「みち」ではなく東海道などの道)
国の変遷(こちらももちろん武蔵野国などの旧国)
郡の興亡
府県の誕生
府県の確定
などと続く。ただ,残念なのは各項目が図版も入れて2ページずつ程しかなく,浅く広くという感じ。そして,参考文献もほとんど示されていない。

ただ,同じ地名でも小地名だけでなく,国名や府県名といった広域地名に目配りしてあり,しかもその歴史的経緯について記述してあるというのは非常に貴重である。この成果を文献で補いつつ,現代の地名の階層関係という私の主たる関心に引き寄せていくという方向性が見えてきました。

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