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ニッポン 旅の絵本

田中 薫 1978. 『ニッポン 旅の絵本』伝統と現代社,197p.1500円.

人名間違いで随分以前から手元にあった本。同じ出版社の同じシリーズで,中川浩一『旅の文化誌』という名著があったため,間違えて購入したもの。田中 薫とは地理学者でもいて,『地学写真』という著作がある。私は写真の研究もしていたから,「地理写真」を提唱していた石井 實氏の文章も読んでいたが,そのなかに田中 薫氏の名前があり,覚えていたのだ。

本書の著者は出版当時,毎日新聞社出版局に勤務しながらイラスト・ルポを書いているという人物。せっかくなので,最近旅行記をいくつか読んでいたが,その現代日本版として読むことにした。この人はイラストも描くということで,絵になる風景を求めているということで,目次にあるように一定のテーマがあり,ピンポイントで旅行をしている。

Ⅰ 西洋館のある町
 1 函館〔北海道〕
 2 神戸〔兵庫県〕
 3 長崎〔長崎県〕

Ⅱ 街道を行く
 1 七ヶ宿街道〔宮城県〕
 2 木曽路〔長野県〕
 3 吉備路〔岡山県〕

Ⅲ 蔵と民家と
 1 喜多方〔福島県〕
 2 川越〔埼玉県〕
 3 高山〔岐阜県〕
 4 今井町〔奈良県〕

Ⅳ 城跡のある町
 1 上田〔長野県〕
 2 小浜〔福井県〕
 3 津和野〔島根県〕
 4 萩〔山口県〕

著者は新聞社勤務ということで,休日が土日なのかはわからないが,本書によると大抵の旅は23日程度の一人旅だという。しかも,遠距離は仕方がなく空路を用いるが,目的地が決められているとはいえ,その道中も楽しみたい人らしく,鉄道やバスでの旅を好んでいる。そして,お目当ては比較的狭い範囲期ということで,最寄り駅につくとレンタルサイクルを借りていることが多い。確かに,私が高校生の時に行った修学旅行でも,奈良でレンタルサイクルを借りている。最近も都心でビジネス用に活躍しているレンタル(シェア?)サイクルを見かけるが,マイカー所有(免許取得)率の低い時代には観光の主たる手段だったのかもしれない。なお,著者は徒歩も得意なようで,時間に余裕があるときは結構な距離を歩いている。

私は旅好きではないが,スタイルとしてはこの著者の旅に非常に共感できるので,しかも味気ない写真ではなくイラストなので,モノクロ印刷の書籍でも十分に楽しめる旅行記だった。ちなみに,巻頭には口絵としてかなりの枚数のカラーイラストも掲載されている。

著者が訪れる場所は,目次からもわかるようにいわゆる古き良き時代の日本を感じ取れる場所が多い。でも,著者の語り口はそれほど強くはない。自分自身がいっとき通り過ぎるだけの旅人であることに対する謙虚さがある。しかし,文章の書き方は現代に入り,かなり一般的な旅行記のスタイルを踏襲しているといえる。このスタイルがどのように獲得されるのか,なかなか実証は難しいテーマだとは思うが興味を惹かれる。

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