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グローバル・シティ

サッセン, S.著、大井由紀・高橋華生子訳 2008. 『グローバル・シティ――ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』筑摩書房,477p.,円.

 

仲の良い地理学者、荒又美陽さんの科研費メンバーに「協力研究者」として加えてもらった。課題は「ポスト成長期のオリンピックに関する地理学的研究―メガイベントを通じた都市変容分析」というものであり、私の担当として、とりあえず近年の都市論の推移を把握することが要求されている。ということで、サッセンのグローバル・シティ論をきちんと読んでおこうと思い、読み始めた。

その前に、手元にあった『現代思想』のサッセン特集をきちんと読んでみた。サッセンは思いの外、地理学研究に精通していて、『労働と資本の国際移動』という翻訳もされた著書があるように、移民研究も手がけている。今年翻訳が出た『グローバル資本主義と〈放逐〉の論理』を読む前に本書を読んでいこうと思った次第。

 第1章 本書について
1部 グローバル化の地理学と構図を読み解く
 第2章 分散と新しい形の集中
 第3章 対外直接投資の新しいパターン
 第4章 金融業の国際化と拡大
2部 グローバル・シティの経済秩序
 第5章 生産者サービス
 第6章 グローバル・シティ――脱工業化時代の生産の場
 第7章 グローバルとシステムをつくるもの――ネットワークと階層
3部 グローバル・シティの社会秩序
 第8章 雇用と所得
 第9章 経済再編――階級と空間の二極化
むすびに
 第10章 新しい都市のレジーム?
エピローグ
別表A-D

目次を見ても驚くのは,彼女がかなり「地理学」という語を多用していることだ。もちろん,ハーヴェイやソジャ,スミス,スコットといった地理学者の文献が登場するだけでなく,なんとクリスタラーの名前も出てくることに驚く。特にクリスタラーを意識して,第7章のテーマは「都市システムの階層」となっている。しかし,それより驚いたのが,彼女の夫がリチャード・セネットだということ。世代的にはだいぶ離れているような気もしますが。

さて,前半は,というか後半までけっこう私には読みにくい。とはいっても,翻訳は素晴らしく,読みにくいというのは内容のこと。第3章が「投資」で第4章が「金融」ということで,私の苦手分野なのです。しかも,これまで私が馴染んできた都市論といえば,難しい思想書を駆使して論を組み立てる類のものが多かったのに対し,本書はきちんとしたデータを整理,提示し論を組み立てるということです。文献を参照するのはそうした経験的な研究成果であって,都市思想ではないという点は,ある意味新鮮で,だからこそ都市社会学の人に非常に評価されているのかもしれません。ただ,もちろん「投資」や「金融」がグローバル・シティにとって最重要の要素であることは私もわかります。本書の初版は1991年であり,翻訳書は2001年に出された第二版である。その10年間のデータが更新されていることは当たり前だが,初版に寄せられた批判に対する回答も巻末に収められている。そこでも述べられているが,投資や金融という,グローバル化に特有の場所によらない社会関係の在り方を,著者はあえて都市に埋め込もうとしているところに特徴がある。それが第1部である。

第2部の中心は「生産者サービス」である。サービス業というのは小売業を代表とする消費者を相手にした商売であるが,生産者を相手にしたサービスがグローバル・シティには顕著だという。これも,やはり場所を強く意識していることが分かる。多国籍企業の本社などが集中する大都市にはそういう生産者が経済活動を行う際に必要なサービスを提供する企業も集中するということだ。まあ,なんか私が書くと当たり前のことを書いているだけのような気もします。ちなみに,期待した第7章は,それほど地理学研究的な都市システムの話には展開していなくて残念。

読み応えがあったのは第9章です。ここは,彼女の得意分野でもある移民の話を含んでいるということもありますが,その前段というか,この議論を効果的にするために,投資や金融,生産者サービスに関する長々とした説明があったような気もします。そして,移民だけではなく自国の下層労働者についても,これまで論じられてきた両者の単純な関係だけではなく,詳しく議論がされています。日本の日雇い労働についても調査しているようで,詳しいエスノグラフィックな記述もあります。

「エピローグ」における初版に寄せられた批判に対する応答も非常に読み応えがあります。そこでちょっと気になったのは,本書ではグローバル・シティをとりあえず,ニューヨーク,ロンドン,東京の三都市としています。そして,この三都市に関するデータの比較をしているわけですが,それ以外のグローバル・シティ候補都市について同じようなデータの比較をした上で三都市が選ばれたのか,あらかじめ決め打ち的にデータがそろえられたのかということです。地理学者がやりそうなのは前者でありますが,作業としてはかなり膨大になると思います。まあ,本書は量的なデータでグローバル・シティの条件を探すような研究ではないので,そういう必要はないとは思いますが。

 

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