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2017年10月

ポスト2020の都市づくり

一般社団法人国際文化都市整備機構(FIACS)編 2017. 『ポスト2020の都市づくり』学芸出版社,285p.2400円.

 

2020年の東京オリンピック後に,そのために行った都市整備をどう活用すかという議論は新聞レベルでもありますが,本書はフロリダの翻訳者である井口典夫氏も書いているということで,読んでみた。読み終わって,帯を見てみると,「ソフトパワーによるイノベーティブなまちづくりへ」とある。確かに,私はオリンピックのために整備された競技場や関連するインフラをどう活用するのかというハードな問題ではなく,ソフトな問題を知りたかったわけだが,本書はあまりにもオリンピックとは関係なかった。しかし,反面教師的に本書から得たものはあった。

序文 「ポスト2020年」が意味するもの(水野誠一)
1章 創造都市の理念と実際(井口典夫)
2章 都市の創造力を高める「ポップ」&「テック」(中村伊知哉)
3章 来るべき計画者のために~アートプロジェクトの現場から(芹沢高志)
4章 アートは地域に取り込まれるのか,地域はアートに力をもらえるのか(玉置泰紀)
5章 街のブランディングとソフトインフラ(小林洋志)
6章 動き出すパブリックスペースと運営組織のデザイン(保井美樹)
7章 都市開発の変化とソーシャルハブの形成(松岡一久)

その井口さんとは,本書に書かれている略歴によると国土交通省で役人をしていた後,青山学院大学に移ったという。本書の1章では,渋谷・青山・原宿エリアのまちづくりに関わった事例が紹介されているが,ここを「筆者自身のふるさと」(p.33)と呼ぶ。「地元」ならまだしもこんな日本屈指のファッション地区を「ふるさと」と呼ぶところにまず違和感を抱く。確かに,こうした多くの資本が集中する地区であっても,各企業が好き勝手にやって統一された街並みができるはずはないが,この地区を訪れる者なら誰もが知るあれもこれも私が提案したみたいに書かれると自慢にしか聞こえない。実態は分からないが,潤沢な資金に人材が集まるようなこの地区の事例は,事例になりうるのであろうか。

本書はそんな「エリートまちづくり」としては一貫している。地方の名だたるアート・フェスティバルのディレクターやKADOKAWAの編集者,博報堂プロデューサーなどなど。2章は竹芝地区に計画されているデジタル・コンテンツの集積地「CiP」の話。3章は別府市のアート・フェスティバルやさいたま市の「さいたまトリエンナーレ」。4章は日本各地で成功した「地域アート」の主催者へのインタビュー。5章は博報堂が手掛けた東京スカイツリーのソフト面でも取り組み。6章は公共空間の話だが,事例は日本の大都市圏中心部。7章は「ソーシャルハブ」という概念を提示しているが,公的に開かれた場でのクリエイティブな交流の必要性といったところでしょうか。

本書は地域活性化をうたっているわけではなく,あくまでも「都市づくり」といっているので,看板に偽りありというわけではない。私が期待していたものとは違っていたということだけだ。しかし,フロリダの理論がこういう人たちによって日本で紹介されていることが,現在この理論が政府の政策にも応用されていることの所以かと妙な納得をしてしまった。そこにアカデミーも絡んでいるわけだが,これらがもたらす功罪についてもアカデミーがしっかりみていかなくてはならないのかもしれない。

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クリエイティブ都市経済論

リチャード・フロリダ著,小長谷一之訳 2010. 『クリエイティブ都市経済論――地域活性化の条件』日本評論社,250p.2800円.

 

都市論の勉強の一環で読んだ一冊。フロリダの著書は『クリエイティブ資本論』が有名だが,一冊読むのであれば,地理学者でもある小長谷さんが翻訳したものを読んでみたいと思った次第。本書は『クリエイティブ資本論』のベースとなったいくつかの学術論文を収録したものということらしい。

 第Ⅰ章 はじめに
 第Ⅱ章 都市とクリエイティブ・クラス
第Ⅰ部 才能
 第Ⅲ章 才能の時代の競争
 第Ⅳ章 才能の経済地理学
第Ⅱ部 寛容
 第Ⅴ章 ボヘミアンの経済地理学
 第Ⅵ章 技術と寛容(ゲーリー・ゲーツとの共著)
第Ⅲ部 場所
 第Ⅶ章 大学,才能,場所の質
 第Ⅷ章 9.11以降の場所づくり――クリエイティブ時代におけるロウアー・マンハッタンの復興
 第Ⅸ章 未解決問題

本書を読んで,やはり『クリエイティブ資本論』も読んでおこうと思ったが,おそらくそこでの発想は本書にすでに出そろっているようだ。フロリダが主張するクリエイティブ都市という議論はすでに日本政府の政策にも反映されるほどポピュラーなものになっている。まあ,この手のものが制作に利用される際には,その表面的な理解や形骸化が常なので,そこから頭ごなしに否定するのではなく,きちんと読んでおかなくては。

フロリダの主張はとても分かりやすい。それは大胆であるから注目されやすく,また統計データを利用して指標化・数値化して示しているから説得的で理解されているように感じた。そして,一方ではそのことが逆に専門家には反感を読んだり,批判を招いたりしている。やはりなんとなくサッセン『グローバル・シティ』と似ている感じがした。

本書でフロリダは,クリエイティブ・クラスを特権的な階級とみなしているわけではない。誰でもクリエイティブな才能を発揮できるはずだが,実際に発揮できるにはさまざまな条件があるのだという。そのキーワードが「寛容性」である。ある場所にクリエイティブな才能を発揮した人が集まるのは,そこが寛容な場所だからだという理論である。寛容性をはかる指標の一つが「ゲイ」である。同性愛者は,自身の居心地が悪い場所を避け,自分を受け入れてくれる土壌を求めて移動をする。それは芸術家にも当てはまり,それを本書では「ボヘミアン」と呼ぶ。これは今読んでいるスミス『ジェントリフィケーションと報復都市』のジェントリフィケーションの動向と一致する。スミスはもちろんこの動向には否定的なのだが,フロリダの理論では,それが都市を活性化させる要因だという。楽観的なフロリダに対し,悲観的なスミス,そこに中道のサッセンを位置づけられようか。

それにしても,数値化されたデータの提示が私のような読者には非常に煩わしい。同じ指標を何通りも組み合わせて同じ形式のグラフに示すという表現の仕方はあまりクリエイティブには思えない。まあ,ともかく本書で,フロリダ自身は自分の学説的な位置づけもしているし,自伝的な内容も含んでいて,学ぶことは多かった。そして,本書は訳者の解説が非常に丁寧であることも特徴の一つ。『クリエイティブ資本論』の訳者は,後日紹介する本の執筆者の一人だが,フロリダ理論を政策に適用してきたまさに張本人だが,訳者の比較というのも面白いかもしれない。

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新自由主義(ハーヴェイ)

デヴィッド・ハーヴェイ著,森田成也・木下ちがや・大屋定晴・中村好孝訳 2007. 『新自由主義――その歴史的展開と現在』作品社,395p.2600円.

 

最近私は近年の都市論について勉強している。先日紹介したサッセン『グローバル・シティ』もその一環だが,それより有名になってきたリチャード・フロリダなども読んでいる。その議論はクリエイティヴ都市論などとも呼ばれている。こうした動向は日本の社会学者がけっこうきちんと紹介しているのだが,その文脈で,英語圏地理学者による「都市の新自由主義化」という議論があるらしい。こちらは日本語ではまだきちんと読めるものはないのだが,もちろんそのベースとしてハーヴェイの新自由主義論があるということで,読むことにした。日本語訳は400ページ近い大著だが,原題は「新自由主義の簡単な歴史」ということになっている。まあ,実際日本語版の帯にも「21世紀世界を支配するに至った新自由主義の30年間の政治経済的過程とその構造的メカニズムを世界的権威が初めて明らかにする」とあるように,歴史といっても英国のサッチャーと米国のレーガン辺りからの話にすぎない。

第1章 自由とはこういうこと
第2章 同意の形成
第3章 新自由主義国家
第4章 地理的不均等発展
第5章 「中国的特色のある」新自由主義
第6章 審判を受ける新自由主義
第7章 自由の展望
付録 日本の新自由主義(渡辺 治)

最近,作品社から翻訳の続くハーヴェイものとしては,本書が読むのが初めてだが,これまで私が読んだハーヴェイものとはかなり異なった印象を受ける。確かに,ハーヴェイは博学でさまざまな知識が自由自在に駆使されて論が展開するのだが,本書は私が生きている時代の歴史ということもあるが,時事ネタのオンパレード的な感じで,学術的な重厚さや地理学的な雰囲気が前半ではほとんど感じられない。まあ,それは翻訳本の想定の雰囲気にもよるのだろうけど,やはり矢継ぎ早に出版されるハーヴェイの最近の著作はこういう感じなのかもしれない。

とはいえ,やはりその議論は適切で,思わず納得させられてしまう。本書は新自由主義を扱ってはいるが,特に政治の側面からアプローチしていて,論旨は明確である。しかし,彼の得意とするところの「地理的不平等発展」に関しては,第4章の目次から期待されるほど学ぶことは多くなかった。

私にとって学ぶことが多かったのは中国に関する説明である。素朴に,私はなぜ社会主義国の中国がこれほどの経済成長を遂げたのかということについて知識がなく,その点では基礎的な歴史的知識を得ることができた。そして,第4章以降は徐々に読み応えのある内容になってきて,読後の達成感はかなり得られた。新自由主義に関してもう一冊翻訳されている『ネオリベラリズムとは何か』も読んでおきたい。付録の日本に関する議論もためになった。

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