« 地政学とは何か(ドッズ) | トップページ | 地に呪われたる者 »

ジェントリフィケーションと報復都市

ニール・スミス著,原口 剛訳 2014. 『ジェントリフィケーションと報復都市――新たなる都市のフロンティア』ミネルヴァ書房,404+46p.5,800円.

 

5800円という値段から,これまで読まずにいたが,読んでみて得るところは非常に大きかった。ニール・スミスは論文も含めてほとんど翻訳されていない。『現代思想』の1999年12月号の特集「変容する空間」に訳されている「グローバル経済の危機と国際的批判地理学の必要性」はタイトルから分かるが,国際批判地理学会議の基調講演となっている。
正直言って,スミスは1984年の『不均等発展』を読みたいところだし,ジェントリフィケーション自体には興味はなかった。しかし,本書はジェントリフィケーションを広義に捉え,そうして特定の研究分野にとらわれない広範な議論が展開されていて,素晴らしい読書体験だった。訳者もいわゆる狭義のジェントリフィケーションを専門としているわけではないが,長い時間をかけて本書と向き合って,いろんな人の助言を借りてこの訳書を作り上げたことにまずは感謝の意を表したい。

まえがき
イントロダクション
 第1章 「アベニューBの階級闘争――ワイルド・ワイルド・ウエストとしてのロワー・イーストサイド」
 第2章 ジェントリフィケーションはダーティ・ワードか?
第Ⅰ部 ジェントリフィケーションの理論に向けて
 第3章 ローカルな議論――「消費者主権」から地代格差へ
 第4章 グローバルな議論――不均等発展
 第5章 社会的な議論――ヤッピーと住宅をめぐって
第Ⅱ部 グローバルなことはローカルなこと
 第6章 市場・国家・イデオロギー――ソサエティヒル
 第7章 キャッチ=22――ハーレムのジェントリフィケーション?
 第8章 普遍と例外をめぐって――ヨーロッパの三都市
第Ⅲ部 報復都市
 第9章 ジェントリフィケーションのフロンティアを地図化する
 第10章 ジェントリフィケーションから報復都市へ

本書の原題は,訳書の副題になっている「新たなる都市のフロンティア」である。米国の事例がベースとなっているが,米国でフロンティアといえば,西部開拓の前線のことである。全土を開拓しつくしてしまった後,新しい前線=フロンティアが都市の中心部であるというわけだ。そして,著者自身も研究者としてジェントリフィケーションという現象自体を専門にしてきたわけではないが,自身の都市経験がおのずからこのテーマに向かわせたという。

ハーヴェイについでマルクス主義地理学の立場に立つスミスだから,当然資本主義がもたらす格差社会,貧困の問題,ホームレスなどが彼の主要な研究対象だったわけだが,ジェントリフィケーションはまさに都市中心部の貧困者を襲う資本主義の手だといえる。本書の魅力はその多角的な視角であり,多様な手法である。社会思想的な理論は著者の得意とするところだが,それだけではなく実際の統計データに基づくいわゆる経済理論による検証も含まれている。実際の観察に基づく写真が掲載されれば,雑誌や風刺画,映画などの表象分析も含まれる。

本書での発見はいくつかあるが,非常に素朴なところでは,「ジェントリフィケーション」という言葉自体について。日本ではなじみの薄かったこの言葉を私は学術用語かと思っていたが決してそうではなかったということ。タイトル通り,第2章がこの言葉の一般における用法をめぐる議論だが,第2章のタイトル自体は新聞広告の見出し記事だということである。学術後としても行き過ぎた再開発を揶揄する言葉と私はとらえているが,一般社会においても同様で,開発側はこの言葉を消去しようとしたり,浄化しようとしたりする。

3章,第4章では著者の得意とするスケール論と不均等発展論が存分に生かされている。基本的に本書は米国の事例で展開していくのだが,第8章ではヨーロッパの三都市として,アムステルダム,ブダペスト,パリについてそれぞれの事情が報告されている。

本書がジェントリフィケーション研究にとどまらないのは,「報復都市」についての議論である。この概念を理解するのは少し難しい。ジェントリフィケーションが欧米で進展するなか,もちろんその資本の力に抵抗する反ジェントリフィケーション運動はかなり活発であったのだが,いずれにせよ,弱者の声はかき消されてしまう。さらにはそうした弱者に声に対して,資本の力がマジョリティである大衆の意識に訴える形で,ホームレスなどへの報復を訴えるのだという。その意識が報復主義であり,その立場に立ってさらなるジェントリフィケーションを推し進めるのが報復都市だという。

|

« 地政学とは何か(ドッズ) | トップページ | 地に呪われたる者 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/66091488

この記事へのトラックバック一覧です: ジェントリフィケーションと報復都市:

« 地政学とは何か(ドッズ) | トップページ | 地に呪われたる者 »