アメリカ大都市の死と生
ジェイン・ジェイコブズ著,山形浩生訳 2010. 『アメリカ大都市の死と生』鹿島出版会,501p.,2400円.
帯には「都市論のバイブル,待望の全訳なる。」とありますが,原著が1961年に出た本書を読みました。超訳者の山形氏によるもので,非常に丁寧な訳者あとがきもついていますので,助かります。当然ジェイコブズの名前は知っていましたが,意外にもというか,日本の地理学ではその学説が議論になったことがなく,内容に関してあるいはその後の反響についてもよく知らなかった。
第1章 はじめに
第I部 都市の独特の性質
第2章 歩道の使い道――治安
第3章 歩道の使い道――ふれあい
第4章 歩道の使い道――子供たちをとけこませる
第5章 近隣公園の使い道
第6章 都市近隣の使い道
第II部 都市の多様性の条件
第7章 多様性を生み出すもの
第8章 混合一次用途の必要性
第9章 小さな街区の必要性
第10章 古い建物の必要性
第11章 密集の必要性
第12章 多様性をめぐる妄言いくつか
第III部 衰退と再生をもたらす力
第13章 多様性の自滅
第14章 境界の恐るべき真空地帯
第15章 スラム化と脱スラム化
第16章 ゆるやかなお金と怒濤のお金
第IV部 ちがった方策
第17章 住宅補助
第18章 都市の浸食か自動車の削減か
第19章 視覚的秩序――その限界と可能性
第20章 プロジェクトを救うには
第21章 地区の行政と計画
第22章 都市とはどういう種類の問題か
訳者あとがきを読んでしまうと,偉そうに読書日記など書く気がうせてしまう。まあ,そのくらいの文章なので,ぜひお読みください。まあ,私なりの素直な感想を書くことにしましょう。本書で主張されていることの一つが「多様性」である。これは,フロリダの創造都市論のなかでも「ゲイ指数」などで用いられているものである。それどころか,最近は日本の民間企業でも「ダイバーシティ」などといって形骸化され都合の良いように使われているが,とにかくいろんな人が集まっていることが都市の本質であり,それが都市を活性化するという主張はわかりやすいし,これが1961年の時点で強く訴えられていることには驚く。
また,そういう多様な人間たちが交わる場として,公園のような公共空間ではなく,「街路」を主張しているところも面白い。とはいえ,街路とはstreetの訳だとは思うが,アメリカの都市を前提として書かれているこの概念を日本でどう具体的に思い描けばよいかはよく分からない。そして,多様性の理解に対して,自然科学の学説を持ち出し,今日でいう複雑系のような考え方で都市を捉えるべきだという主張も,例えば世界システム論のウォーラーステインがプリゴジンを参照してそのシステム概念を利用する数十年前だ。
また,ウォーラーステインに関連させれば,その16世紀以降の近代世界システムに対抗して13世紀の世界スシステムを論じたアブー=ルゴドの『ヨーロッパ覇権以前』でウォーラーステインからいわれた言葉だとして書かれていることを思い出す。発展よりも衰退について説明するのが難しい,と。そういう意味では,本書が都市の発展を軸にしていながらも,その衰退について論じていることもまた興味深いといえる。ただ,ジェイコブズの場合は近代的な都市計画,ないしは当時アメリカ各都市で行われていた再開発が地域をダメにするという主張のなかで衰退が論じられるのだが。
訳者あとがきで山形氏はジェイコブズのアマチュア性を強調している。もちろん,その弱点を指摘することも忘れないが。私の場合はかなり学術性を装っているし,大学院まで一応正規の教育を受けた身だが,実際の研究の土台は独学に近いもので,現在もどこの研究・教育機関にも属していないという意味ではアマチュアだといえると思う。もちろん弱点については意識しながらもアマチュア性を発揮できるような書き手でありたいと思う読書であった。
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