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子どもを信じること

田中茂樹 2011. 『子どもを信じること』大隈書店,331p.2,800円.

 

妻は現在人生の岐路に立っている。自らが実の親から十分な愛情を受けて育っていないため,思ったようには自分の子どもに愛情を注げていないということらしい。「らしい」と表現したのは,そもそも親子の愛情というものがどういうものかが分からないので,どういうあり方が正しいのは分からないので,判断材料がないのだ。とはいえ,多くの者は単一の親子関係しか経験したことがなく,しかも子どもの立場で経験する親子関係と親の立場となって子どもと接する場合とは比較にならないと思うので,個人的には親になるものは誰でも悩む問題だと思う。
とにかく,その答えのヒントでも知りたいということで,さまざまな本を読んでいる。その中の一冊,本書に関しては私にも読むことを薦めてくれたので,読むこととなった。本書の著者は医学部を卒業した後,心理学専攻で博士まで取っている。大学の教授でありながら臨床心理士としてカウンセリングも行っているという。自らの多様な経験から,一般向けの本として本書は執筆されている。本書は短い45の断片から構成されているが,大まかに三部構成となっている。

I 診察や面接で気がついたこと
II
 親子の関係
III
 子どもとのコミュニケーション

著者自身も親であり,本書で書くような育児の実践を実際に自分の家族でやり始めたのは一番上の子どもが中学生になってからというから,子どもを持つ親に対してカウンセリングを行う人が自分の子どもに対して決して完璧な育児をしているわけではないということをさらけ出しているところに著者の実直さを感じる。
本書はある意味で書名に関していろんな角度から具体的な話,時折難しい理論的な話を交えて展開される。要約すると,子どもは自らの力で自らを幸せに導く力を持っているから,親や大人の立場であれやこれやうるさくいう必要はなく,温かく見守りつつ子どもを人格を持った人間として認めることが必要なのだという。臨床心理士として著者が接する親は当然,育児に関して問題を抱える人たちである。多くは子どもが不登校になるという事例だが,もちろんそれは一つの問題として表に現れたものではあるが,そうではない普通の子育ての場面でも大いに役立つことが書いてある。
しかし,私のような読者が読むと,少しくどい印象を受ける。そしてややもすると,決定論的な印象を受けることもある。子どもが家庭内外で問題を起こすということは,本書のタイトルにあるようなことが足りていない,すなわち親が子どもを本当の意味で信じていないことが引き起こしているのだ,という風に読み取れてしまう箇所も少なくない。そして,著者の考えに基づいて親が子どもに接するとすべてがうまくいくような書き方も多く,現実的というよりは理想的であるような印象も受ける。本書を読んで思い出したのが,長男が生まれて間もなく読んだ,おむつなし育児の本だ。こちらも,苦労することは多いが,おむつなしで育てることの効用があれやこれやと書いていて,読んでいると「これは素晴らしい!」と思うのだが,ほとんど現実には実践できなかった。まあ,本書の場合には実践できることも少なくないので,無理のない範囲で,またすぐに効果がなくても,まあそんなもんか,という軽い気持ちで育児に利用させてもらおうと思う。

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