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都市は人類最高の発明である

グレイザー, E.著,山形浩生訳 2012. 『都市は人類最高の発明である』NTT出版,484p.3,564円.

 

最近の読書日記で、原著が1961年に出版されたジェイコブズの『アメリカ大都市の死と生』、2002年に出版されたフロリダの『クリエイティブ資本論』を紹介した。
本書もその系譜に連ねることができるもので、著者の「謝辞」の表現を使えば「通俗書」である。最近の読書は、謝辞や訳者あとがきのようなものを先に読まず、1ページ目から読むようにしているので、気づかなかったが、著者にとって通俗書は一つのチェレンジだったようだ。それまでは、基本的に学術論文を発表の場としていたらしい。そのせいか、本書はまさに通俗書となっており、そういう意味でジェイコブズやフロリダと共通した雰囲気を持っている。いろんな事例が次から次へと登場し、それらが都合の良いように著者の主張を補強しているのだ。
ところで、これも1ページ目から読んだために気づかなかったが、学術書を煩雑なものにしている注釈が本書では巻末にまとめられている。しかも、ふつうは「1)」などと本文に示されているのだが、それがないのだ。巻末に該当するページの該当する文章が抜き出されていて、それに文献が省略形で示されている。詳細な文献表はそのまた巻末にまとめられているのだ。一方、本文では「ある研究者によると」とか「などといわれている」ような書き方で、この注釈に気づく前は「なんていい加減なんだ!」と思ったが、ともかく煩雑な注。

日本版への序文
はじめに:われら都市生物
1章 バンガロールの産物は?
2章 なぜ都市は衰退するのだろう?
3章 スラムのよいところ
4章 貧困者住宅の改善方法
5章 ロンドンは豪華リゾートか
6章 高層ビルのすばらしさ
7章 なぜスプロールは拡大したか?
8章 アスファルトこそ最高のエコ
9章 都市の成功法
結論:フラットな世界に高層都市

さて、本書は内容的にもジェイコブズとフロリダと似通っている。しかし、実はフロリダは文献表には登場せず、本文に一度だけ登場する。「あるビジョンは都市学者リチャード・フロリダが広めたもので、芸術やオルタナティブな生活様式への寛容性と、おもしろくてエキサイティングな都心を強調する。」(p.342)しかし、このページには注釈はない。そして、フロリダの考えに対しては「私だって都市文化はよいものだと思うが、美的な介入では都市の基本のかわりには決してならない」(p.343)と、文化的な側面よりも経済的な側面を強調し、フロリダ以降流行っている「創造的政策」を暗に批判している。ジェイコブズには基本的に賛辞を与えているが、ジェイコブズが主張していた低層な住宅が街路を魅力的なものにする、という考えには否定的な意見を示している。それは第6章のタイトルにもあるが、著者は基本的に高層ビルをよいものと考えているからだ。ジェイコブズも人口密度が人々の交流を生み出し、いい効果があることを主張しているが、高層ビルという極度な人口密度も著者は認めている。
そして、ジェイコブズやフロリダと根本的に違うのは、スラムや貧困地区を否定的にとらえていないところだ。というか、ジェイコブズやフロリダはそういう大都市の負の側面についてはあまり正面切って論じていない。すでに読書日記にも書いたように、フロリダも地域格差については論じている。しかし、本書では単なる階級としてだけでなく、貧困者の集住地区という空間的側面に対して向き合っているのだ。そして、ジェイコブズとフロリダ同様、本書の基礎はアメリカ合衆国にあるのだが、ムンバイやバンガロールといったインドの都市、リオ・デ・ジャネイロのスラムである「ファベーラ」、中東のドバイなど、欧米以外の都市についてもかなりのページを割いて解説をしている。また、都市だけでなく、インドと中国の動向についてもきちんと目配せをしているのは、本書で「グローバル化」という言葉は頻出しないが、21世紀を論じるのに当然の観点として、本書を貫いているのは好感がもてる。
そして、訳者山形氏による丁寧な「あとがき」がやはり有用である。とはいえ、彼の訳者あとがきとしてはすこし物足りなく感じるが。本書の主張に対する根本的な批判を忘れてはいない。この批判はフロリダの理論にも向けられていると思うが、ただ高層化して人口密度が高まれば、人々が出合いイノベーションが起こるわけではない。

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