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ネオリベラリズムとは何か

デヴィッド・ハーヴェイ著,本橋哲也訳 2007. 『ネオリベラリズムとは何か』青土社,198p.1900円.

 

ハーヴェイの近著に『新自由主義』という訳本があるのに,なぜ本書もあるのかという素朴な疑問から読むことにした。原著タイトルでいえば,『新自由主義』が「新自由主義の簡単な歴史」であり,本書は「新自由主義の空間」。そして『新自由主義』が400ページ近いのに対し,本書は200ページ以内。つまり,『新自由主義』はその歴史(といっても20世紀後半からのものだが)を扱った解説書であり,本書はその地理(空間)を扱った講義を基にする本であるという違いであった。本書の基となったのは2004年にハイデルベルク大学の地理学会で行われた,19世紀の地理学者ヘットナーにちなんで行われたもの。
以下に目次を示すが,実はネオリベラリズムに直接かかわるのは3つある大項目のうちの最初の1つにすぎない。もちろん,ハーヴェイによる現代史で,ネオリベラリズムは大きな比重を占めるので,後半の話にももちろん関係してくるのだが,本文にネオリベラリズムの言葉はあまり出てこない。そういう意味では,この構成は『ニュー・インペリアリズム』とよく似ている。

ネオリベラリズムと階級権力の再生
 ネオリベラル的転回
 ネオリベラルな国家
 移植,拡散,転回
 中国という独特なケース
 達成――略奪による蓄積の再興
 ネオリベラリズム内部の矛盾と対抗勢力
 新保守主義的な対応
 別の選択肢
地理的不均等発展の理論に向けた覚え書き
 議論の構造
 社会的プロセスが「生活のネットワーク」のなかに物質的に埋め込まれていること
 略奪による蓄積と価値切り下げ
 時空間における資本蓄積
 社会的闘争の政治的力学
 追記
空間というキーワード

『新自由主義』では,その歴史がレーガンやサッチャーなどの具体的な名前を挙げて,順を追って説明されていますが,本書ではその理念的なことがある程度抽象的に語られている印象があります。とはいえ,本書が空間に特化して論が展開されているかといえば,『新自由主義』にも「地理的不均等発展」と名付けられた章もありますし,国家の議論もあります。本書が空間や地理に限定して論をしているかというとネオリベラリズムに関してはそうともいえず,最後の「空間というキーワード」という項目があるということにすぎません。
本書にはネオリベラリズムの定義のような記述があったので,引用しておきましょう。「要するにネオリベラリズムとは,あらゆるものが金融化され,資本蓄積の権力の中心が所有者とその金融機関に移り,資本のその他の部門が衰退することだ」(p.28)。また,こんな記述もありました。「NGOも多くの場合,国家が社会的寄与活動から撤退した空白に乗りこんでいたのであった,それがNGOによる民営化プロセスとも言えるものとなり,さらに国家の社会的活動からの撤退を加速することとなった」(p.61)。
地理的不均等発展に関する章では,『ニュー・インペリアリズム』で登場した「略奪による蓄積」の議論がでてきます。ハーヴェイの訳されていない1996年の『正義,自然,差異の地理学』なども参照しながら議論が展開され,なかなか魅力的な議論です。続いて,「空間というキーワード」に移りますが,ハーヴェイは『地理学基礎論』で展開した,絶対空間,相対空間,関係空間という三つ巴がいまでも有効だと論じ,これに対してルフェーヴルが『空間の生産』で展開した,空間の表象,表象の空間,物質的空間の三つ巴とのマトリックスを提示した議論はなかなか面白いです。また,こうした理論を実際の史実で検証したのが『パリ モダニティの首都』であるということですから,やはりこちらも読まなくてはなりませんね。

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