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Spaces of Neoliberalism

Brenner, N. and Theodore, N. eds. 2002. Spaces of Neoliberalism: Urban restructuring in North America and Western Europe. Malden: Blackwell.

 

サッセンによるグローバル・シティ論以降の日本の都市社会学者によって取り上げられることの多かった、英文地理学雑誌『Antipode』の特集号が単行本になっていたので、読むことにした。編者の一人ブレナーは、「リスケーリング論」においてもそうした都市社会学者に注目されている。ブレナーに関しては、翻訳された論文も2編ほどあります。この読書日記でもハーヴェイのネオリベラリズム論は紹介したが、主にネオリベラリズムについては国家の戦略として語られることが多い。もちろん、地理学者ハーヴェイの場合は空間や不均等発展などについても論じられているが、本書は副題にもあるように、都市に着目したネオリベラリズム研究だといえる。

序文:「新しいローカリズム」からネオリベラリズムの空間へ(ブレナー, N.・セオドール, N.
1部 ネオリベラリズムの都市化:理論的論争
 1 「実在するネオリベラリズム」の都市と地理(ブレナー, N.・セオドール, N.
 2 空間のネオリベラル化(ペック, P.・ティケル, A.
 3 現代都市におけるネオリベラリズムと社会化:対極、補足、不安定(ゴフ, J.
 4 新しいグローバリズム、新しいアーバニズム:グローバル都市戦略としてのジェントリフィケーション(スミス, N.
2部 都市と国家の再編:道筋と矛盾
 5 リベラリズム、ネオリベラリズム、都市統制:国家論的視野(ジェソップ, B.
 6 英国の都市政策の論理を発掘する:「危機管理の危機」としてのネオリベラリズム(ジョンズ, M.・ウォード, K.
 7 「都市は死に、ネットが生き延びる」:ネオリベラルなアジェンダに対するヨーロッパ都市間ネットワークを利用する(リートナー, H.・シェパード, E.
 8 都市から価値を抽出する:ネオリベラリズムと都市再開発(ウェバー, R.
3部 権力、排除、不正義の新しい地理
 9 ヨーロッパにおけるネオリベラルな都市化:大スケールの都市開発計画と新しい都市政策(スウィンゲドウ, E.・モラート, F.・ロドリゲス, A.
 10 「常識の」ネオリベラリズム:カナダのトロントにおける進歩的な保守的アーバニズム(キール, R.
 11 都市起業家主義から「報復都市」へ?:グラスゴー再生の空間的不正義について(マクロード, G.

例のごとく、1冊読み終えるまでに時間がかかってしまい、各章をきちんと紹介することはできません。
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章はなかなか刺激的で、なぜブレナーが注目されているのかがよくわかります。ネオリベラリズムはよく知られるように、1980年代から英国のサッチャー政権、米国のレーガン政権によって推し進められたもので、日本でも中曽根時代あたりに萌芽がみられ、小泉政権によって進展させられた、主に国営企業の民営化を中心とする政策である。もちろん、これはそのイデオロギー自体がグローバル化に乗って世界に拡散され、資本主義経済のグローバル化を促進させる(資本主義自体の延命)役割を果たした。

1章のタイトルにもある「
実在するネオリベラリズムActually Existing Neoliberalism」という表現がなるほど,と思った。新自由主義という意味合いにおいて,ネオリベラリズムは一つのイデオロギーだが,実際に私たちが見て触れることができる実在物として現れる。そして,多くの場合それが都市において顕著である。グローバル化と手を取り合って実現するネオリベラリズムは,例えば都市間競争のような形で,国内と都市間や都市-農村間よりも,世界都市,あるいはグローバル・シティ間の競争が基本で,国家の枠組みよりもグローバルな舞台が前提となる。こういう事態がリスケーリングと呼べるのかもしれない。例えば,オリンピックの開催都市は,まず国内での候補都市を決め,一方で国際オリンピック委員会としてはアジア,北米,南米,ヨーロッパなどと地域ブロックでの連続開催がないように考慮しつつ,となると大小のスケールが入れ子状に決定されるといえる。それはある程度のスケール秩序に基づいた公平性などが考慮されるわけだが,そうした公平性とは無縁な資本主義の自由経済に基づく事象はスケールの論理を飛び越える。そういう事態をネオリベラリズムに力を借りたグローバリズムは行使することができる。
この「実在するネオリベラリズム」という概念をもう少し具体化したのが8章で論じられる「建造環境」だともいえる。この概念もハーヴェイによるものだが,一定の継続力を持って土地に固定された建造物は投資の目に見える表現である。もちろんこうした建造物は永続するわけではなく,維持や管理,更新の必要が訪れる。それらを維持するか発展させるか,放置されるか,巨大な建造環境が造られるのが都市であり,維持,発展,放置は都市の持続,発展,衰退と結びつく。
とはいえ,完全に市場原理でグローバル化が進展しないというのがネオリベラリズの特徴だともいえる。だから,国家論で知られるジェソップが本書にも寄稿し,多くの論者に一定の影響を与えている。市場経済への政府の介入という点では,レギュラシオン理論も一定の影響を与えているようだ。ウォーラーステインの世界システム論の対抗馬として登場したように私は記憶しているが,双方とも2000年付近に影響力を失ったように思えて,結局レギュラシオン理論を学ぶ機会を逸していたが,なんとなくネオリベラリズム論の先駆的な存在だったのかもしれない。今更ながら学ぶ意義を感じた。
この読書日記でも紹介した『ジェントリフィケーションと報復都市』のニール・スミスも寄稿している。スミスはジェントリフィケーション研究だけでなく,もちろんそれとも関連するが,スケール論についても一定の評価のある議論を展開しているため,本書にも不可欠な寄稿者である。11章はスミスの「報復都市」論を詳細に検討したものであり,非常に読み応えがあった。グラスゴーの都市再生を事例に論じられている。ジェントリフィケーションという現象はとかく社会的正義のようなものを無視して推し進められるものだと理解されるが,本章は「ポスト正義の報復主義」という概念を用い,正義という概念自体が意味合いを変えているという。
6章では英国の都市政策を,7章ではEUとドイツの都市間ネットワーク,9章のヨーロッパにおける大規模都市開発プロジェクト,10章のトロントなど,事例研究も多いが,本書にはほとんど地図は掲載されておらず,事例といってもそのものの説明は乏しく,理解は難しい。読みながら傍線を引いた,「ネオリベラリズムとは...」という文章だけ抜き書きしても学ぶことは多いはずだが,読後何がしっかりと私の頭の中に残ったかと問われると判然としない。まだまだ私の英語読解能力が足りていないようだ。

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